2017年9月8日金曜日

ミゾカクシ-(2) 半邊蓮,本草綱目,頭註国訳本草綱目,農圃六書,現代中国名,薬効(日中)

Lobelia chinensis Lour.
ミゾカクシの漢名である「半邊蓮」は,李時珍『本草綱目』の第十六巻 草之五 隰草類下 に記されている薬草で,毒蛇に咬まれた時の特効薬とされている.また,『農圃六書』では「半枝蓮」の名でも記載されている.現代中国でも薬草として用いられている.


李時珍『本草綱目』の「半邊蓮」圖 
左より〇初版「金陵本」(1596),〇和刻寛永14(1637)本,〇和刻寛永14年本の後刷(1653)〇『頭註国訳本草綱目』白井光太郎(監修)(1929) より部分引用

1714 稲生若水本
中国本草書の集大成とされる★李時珍『本草綱目』(明代,1596)「第十六巻 草之五 隰草類下七十五種」には
半邊蓮(綱目)
[集解]時珍曰半邊蓮,小草也。生陰濕塍塹邊。就地細梗引蔓,節節而生細葉。秋 開小花,淡紅紫色,止有半邊,如蓮花狀,故名。又呼急解索。
[氣味]辛,平,無毒。
[主治]蛇虺傷,搗汁飲,以滓圍塗之。又治寒 氣喘,及瘧疾寒熱,同雄黃各二錢,搗泥,盌覆之,待色青以飯丸梧子大,毎服九丸空心鹽湯下.時珍〇壽域方」(左図)

★白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳),牧野富太郎(植物考定)『頭註国訳本草綱目』(1929)春陽堂 では,以下のように翻訳・考定している.
半邊蓮(一)(綱目)
和名 みぞかくし,あぜむしろ
學名* Lobelia radicans, Thunb.
科名 ききよう科(桔梗科)
[集解]時珍く,半邊蓮(はんへんれん)は小草であって,陰濕の塍塹の邊に地に就いて生える.細い梗が蔓を引き,節節から細葉が生え,秋小さい淡紅紫色の花を開く,それが蓮花の半片のやうな形だから名けたものだ.また,急解索(きゅうげさく)とも呼ぶ
[氣味]【辛し,平にして毒なし】
「主治」【蛇虺傷(じゃきしやう)には,搗いてその汁を飲み,滓で傷處を塗り圍む。又治寒〓(鼻+勾)氣喘(かんこうきぜん),及び瘧疾寒熱を治するには,雄黃と各二錢を搗き,碗の側に泥つて,その碗を覆せ,色の青くなるのをまって,飯で梧子大の丸にし,九丸づつを空心に鹽湯で服す】時珍 壽域方にある」

《頭注》(一)牧野曰フ,普通ニ野外田間デ見ラルル小草デ,其花冠一方ニ偏シ半邊蓮ノ名下シ得テ頗ル妙ナルヲ思ハシムル.此屬中ニハろべりあさう(L. Inflata, L.)ノ毒草ガアル,之レハ北米ノ原産デアルガ屬中ニ此ノ如キモノガアルヲ見レバ,或ハ此半邊蓮ニモ有毒成分ガアルカモ知レヌト思フ.

*學名:この学名はツンベルクが滞日中観察したミゾカクシに対して付けた名称だが,先取権の原則により,現在は L. chinensis のシノニムとされている(Blog-3参照)

前ブログ記事で述べた『本草綱目啓蒙』に引用されている★()周之璵纂, ()浦巖校『農圃六書』(清初.劉子文題詞, 順治11 (1654) 年)の「巻一, 草本花部,七十四丁」には,
半枝蓮 笑靨
小草也。生陰濕塍塹邉。就地引蔓,生細葉。秋開小花,淡紅紫
色,止有半邉,如蓮花狀,故名。又呼急解索。○笑靨.一名
御馬鞭.根旁發生.春間今栽.花細如豆.一條千花.望之若
堆雪.」(右図)
とある.前半の記述は『本草綱目』の「半邊蓮」と同一だが,○笑靨以下の記述は,「草本花部」や「小草也」とは矛盾していて,ユキヤナギかシジミバナに合うように思われる.
現代中国で「半枝」とは,青紫の花を着けるシソ科の Scutellaria barbata を示す.

★陳扶揺『秘伝花鏡』(原本 1688)「巻之五 花草類攷」には,
笑靨花
笑靨.一名御馬鞭.叢生.一條千花.其細如豆茂者數
十條.望若堆雪.不結實.將原根劈作數墩旁發生.二月中旬
分種.易活.宜糞.」とあり,『農圃六書』の「半枝蓮」の項の○笑靨以下の記述と合致する.
★平賀源内-校正・訓点『重刻秘伝花鏡』(1773)には,「笑靨花」に「コヽメハナ」の和名訓がある.種子ができないこと,現在も中国で笑靨花の名を持つ事からすると,「シジミバナ(Spiraea prunifolia)」であろう.(左図)

★呉其濬 (1789-1847)『植物名實圖考』清末 (1848) の「隰草 巻之十四」には,
半邊蓮
半邊蓮詳本草綱目 其花如馬蘭 只有半邊 俚醫亦用之」とあり,花は「馬蘭」に似ているが半分の辺しかなく,薬用としては民間薬としても用いられているとしている.当時の「馬蘭」とは,同書の「馬蘭」の図からすると,野菊の類である.(右図)

現代中国・台湾でも Lobelia chinensis の中華名は「半邊蓮」とされ,他に急解索,細米草,蛇舌草,半邊花,水仙花草,鐮麼仔草,拈力仔草,鐮歷仔草,半邊荷花,鐮刀草,鐮刀仔草,禾鐮草,蛇俐草(廣東),長蟲草(河南),蛇舌草(福建),瓜仁草の名がある.
全草に涼血解毒,利尿消腫,清熱解毒の薬効があり,黃疸,水腫,肝硬化腹水,晚期血吸虫病腹水,乳蛾,腸癰,毒蛇咬傷,跌打,痢疾,疔瘡に適用されるとある.

日本では,ミゾカクシの薬効としては「[民間療法]単独で慢性腎炎や肝炎の利尿薬とし、他の生薬と配合して喉頭癌の治療や予防に用いる。毒蛇に対して用いる。[有用・有毒成分]全草は、有毒のアルカロイドのロベリンを含む。」との記述が「奄美群島生物資源Webデータベースにある.
同じロベリア属の「サワギキョウ」( Lobelia sessilifolia) は横溝正史の『悪魔の手毬唄』に登場する毒草「お庄屋殺し」として有名であり,また米国原産の Lobelia siphilitica は,一時梅毒薬として歐州で患者に投与試験が行われたので,何らかの生理活性を有していても不思議ではない.

挿図は『頭註国訳本草綱目』,『植物名實圖考』のは,Internet Archive より,他のは NDL の公開デジタル画像より,部分引用

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