2018年4月2日月曜日

ツグミ(4) 百舌鳥・反舌 和漢三才図会,本草綱目,国訳本草綱目,三才圖會,物類称呼「けら腹たてバ つぐみよろこぶ」,鳥のことわざウォッチング

Turdus eunomus
百舌図 ①和漢三才図会,②本草綱目金陵万暦 18(1596)刊,③同.稲生本,④本草図經,⑤三才図会
ツグミは,寺島良安『和漢三才図会』や越谷吾山『物類称呼』によって『本草綱目』に載っている「百舌鳥・反舌」と考定された.明治期の『国訳本草綱目』においても,仮に「百舌鳥・反舌」と考定されているが,近代中国においてはこの「百舌鳥・反舌」は廃語となっているとも記されている.
しかし,水谷豊文は『水谷禽譜』 (1810) において,この考定は「非なり」としている.
『本草綱目』や『三才圖會』の,「百舌鳥・反舌」が冬になると穴にこもるとの記述は,ツグミが中国北部から南に渡りをして見えなくなるのを,言ったのかもしれない.
『物類称呼』には,幾つかの地方名(つむぎ,てうま,かごめ,つぎめ,つぐ)と記録」され,また『和漢三才図会』とともに,京では除夜に是を炙って食べて祝膳とするとある.

★寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)の「巻四十三 林禽類」には
百舌鳥(つぐみ,ヘツシヱツ ニャウ) 反舌
〓(害+鳥)鶴 舎羅梵書
△鶇[音東] 馬鳥
和名 豆久見
本綱,百舌鳥ハ樹孔窟穴ノ中ニ居ル.状鴝鵒ノ如クナレドモ小サク,身ハ略(ホボ)長ク灰黒色ニ微ニ斑点有リ.亦タ尖リ黒シ.行クトキハ則チ頭ス.好ミテ蚯蚓(ミミズ)ヲ食フ.立春ノ後則チ鳴キ,囀リ巳マズ.夏至ノ後則チ声無ク,十月ノ後則チ蔵蟄(チツ)ス.人或ハ之レヲ畜フニ,冬月ニハ則チ死ス.比ノ鳥陰鳥ナリ.能ク舌ヲ反シテ囀ルコト,又百鳥(モズ)ノ声ノ如シ.故ニ百舌・反舌ト名ヅク.周書ノ月令ニ,芒種ノ後十日反舌声無シ,之レヲ陰息ト謂フ.
△按ズルニ,百舌鳥ノ(俗ニ云フ,真豆久見)鵒鸜(クロツグミ)ノ如クナレドモ灰黒色ナリ.京師ニ毎ニ除夜ニ之レヲ炙食シ,祝例ト為ス.倭名抄ニ鶇ノ字ヲ用ウ.又一名馬鳥トイフ.(字義未ダ詳ナラズ)然ルヲ其ノ馬鳥又誤リテ,今鳥馬(チャウマ)ト称ス.」とある.(本文は訓読文,読み下し文にし,適宜句読点を入れた)

現代語訳★『和漢三才図会』島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫(1991
「百舌鳥(つぐみ,ヘツシヱツ ニャウ) 反舌(はんぜつ)〓鶴(かつかつ) 舎羅(しゃら)[梵書]
△鶇(つぐみ)[音は東(トン)] 馬鳥
[和名は豆久見]
『本草綱目』(禽部、林禽類、百舌)に次のようにいう。百舌鳥は樹孔、窟穴中にいる。状は鵒鸜(ハハツテウ)に似ていて小さく、身はやや長くて灰黒色に、微(かすか)に斑点がある。また尖って黒い。歩行するときは頭を俯せる。好んで蚯蚓(みみず)を食べる。立春の後に鳴き囀り、鳴き止まない。夏至を過ぎると鳴かなくなる。十月すぎると蔵蟄(あなごもり)する。冬月にこの鳥を飼うと死んでしまう。これは陰鳥だからである。よく舌を反(かえ)して囀るが、百鳥の声のようである。それで百舌反舌という。『周書』(『礼記』)の月令に、芒種(陽暦の六月五日頃)がすんで十日たつと反舌は鳴かなくなる。これを陰息という、とある。
△思うに、百舌鳥〔俗に真豆久見(まつぐみ)という〕の状は鵒鸜のようで灰黒色。京都ではいつも除夜にこれを炙って食べて祝例としている。『和名抄』(羽族名第二三一)では鶇の字を用いている。また一名を馬鳥という〔字義未詳〕。けれども馬鳥をまた誤っていまは鳥馬(ちょうま)と称している。」
とある.

ここで典拠とされている★李時珍『本草綱目』(四十九巻,禽之三 (林禽類一十七種)禽部、林禽類、百舌)には,
百舌《拾遺》
【釋名】反舌、〇●(害+鳥)〓,音轄軋
〔時珍曰〕按『易通卦驗』云 能反複其舌如百鳥之音,故名●(害+鳥)亦象聲。今俗呼爲牛屎●(口+別)哥,為其形似鴝鵒而氣臭也。『梵書』名舍羅。
【集解】[藏器]肖百舌,今之鶯也。〔時珍曰〕百舌處處有之,居樹孔、窟穴中。狀如鴝鵒而小,身略長,灰黑色,微有斑點,喙亦尖黑,行則頭俯,好食蚯蚓。立春後則鳴囀不已,夏至後則無聲,十月後則藏蟄。人或畜之,冬月則死。《月令》仲夏反舌無聲,即此。蔡邕以為蛤蟆者,非矣。陳氏謂即鶯,服虔《通俗文》以 為白 烏者,亦非矣。音雖相似,而毛色不同。
肉氣味 缺。【主治】炙食,治小兒久不語,及殺蟲(藏器)
窠及糞【主治】諸蟲咬,研末塗之(藏器)。」

しかし日本で出版された『本草綱目』の貝原本(右図),稲生若水本には,和名は併記されていない.

★白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳)『国訳本草綱目』(1929)春陽堂の「禽部 第四十九巻」には
(一)百舌(拾遺)            和名 つぐみ?
                            學名 Morula eunomus (Temm.)
                             科名 つぐみ(鶇)科
(一)木村(重)曰ク,分布廣ク,春秋ノ渡リノ時ハ大群ヲナシテ支那大陸ヲ去來ス.滿洲ニテハ畫眉(フアメイ)ト稱ス.今百舌ノ語ナシ,假ニ定メテ後攷ヲ俟ツ.つぐみ他ニ數種ヲ分布ス.」木村重(きむら しげる、1902 - 1977)は,日本の魚類学者
「「百舌《拾遺》
【釋名】反舌、●(害+鳥)〓,音は轄軋(クワツアツ)である.時珍曰く按ずるに易通に『能く反複して百鳥の音のやうだ.故に●(害+鳥)鳥と名ける』とある。やはり聲に象(かたど)つたものだ。今俗間では牛屎●(口+別)哥(ぎうしべつか)と呼ぶ.それは形が鴝鵒に似て氣が臭いからだ。梵書には舍羅と名けている。
【集解】藏器曰く,百舌とは今の鶯のことだ。時珍曰く,百舌は處處にいる.樹孔や窟穴中に棲み,形状は鴝鵒のやうで小さいが,身がやや長く,灰黑色で微(かすか)に斑點があり,喙も尖つて黑く,行くには頭を俯せ,好んで蚯蚓を食ふものだ。春以後に絶えず鳴き囀り,夏至後には聲をださなくなり,十月以後には蟄(ちつ)に入る。世間では此を飼うものもあるが,冬期には死んで了ふ。月令に『仲夏,反舌に聲なし』とあるがこの鳥だ。蔡邕がこれを蝦蟇(がま)としたのは誤だ.陳氏は鶯だといひ,服虔の通俗文に●(害+鳥)〓を白 脰烏(はくとうてう)としたのも誤だ。音は似ているが,毛の色が異ふ。
[氣味]缺[主治]【炙いて食へば,小兒の久しく物を言はぬを治し,また蟲を殺す】(藏器)
及び[主治]【諸蟲咬に研末して塗る】(藏器)

★明王圻 (1592-1612) 纂集『三才圖會 全百六卷』萬暦371609)序刊の「鳥獣二巻」には
「反舌
反舌春始鳴
至五月止能
反易其聲以
効百鳥之鳴
故名反舌又
名百舌」とある

★越谷吾山 (171787)『物類称呼』1775年刊は,〈諸国方言〉と角書する方言辞書.55冊.全国各地の方言語彙,約4000を,天地,人倫,動物,生植(草木をいう),器用(道具類をいう),衣食,言語の7部門に分け,約500項の標語のもとに列挙する.ときに古書を引いたり解説を加えたりしており,凡例では,簡単ながら方言分布の大観をしている.日本における最初の全国方言辞典で,雅言が尊ばれた時代に方言語彙の編集を試みたことは評価すべく,また江戸中期の方言をうかがうに貴重な文献である.
その「巻之二 動物」に「百舌鳥 つぐみ〇五畿内の俗〇つむぎと云 関東にて〇てうまと呼 加賀にて〇かごめと云 遠江にて〇つぎめと云 仙臺にて〇つぐと云
〔本朝食鑑〕鶇(ツグミ)〔釈名〕馬鳥 鳥馬(てうま)也 螻蛄(けら)をつなぎ置て此鳥を取 東国にて鳥馬(てうま)をまはすと云 又諺*に けら腹たてバ つぐみよろこぶといえるもかゝる事を云にや 京師にて除夜毎に是を炙(あぶ)食を祝例とす」とある.

* ★国松俊英『鳥のことわざウォッチング』(河出文庫,1999)に
「鶫(つぐみ) ㉓喜べばケラが腹を立てる

ツグミを捕らえるのに、ケラが餌としてつないでおかれた。怒っているケラを見て、ツグミが喜んで寄ってくる。一方の怒ることが他方の喜びとなる。利害の対立する関係のことをいう。

このことわざは、かつて行なわれていた釣りツグミ猟の情景のひとこまである。鳥の猟にもいろんな方法があったが、ツグミを鉤でも釣ったのである。おもに茨城県鹿島郡で行なわれていたが、餌としてミミズやケラを使ったのである。このあたりには杜松(ねず)が多く、冬になって実が熟し始めると、ツグミがこれを食べに大きな群れで集まってきた。釣りツグミ猟では、鉤にミミズを刺したものを杜松のそばの地面をかきならした所に置く。鉤には木綿糸を六〇センチくらいつけ、竹の棒に結び地面に固定しておいた。熟した実を食べに来たツグミは、生きたミミズを見つけ大喜びで飛びつき捕まってしまう。鳥を魚のように釣るなんてユニークな猟だが、この釣りツグミ猟は十二月中旬から三月中旬までつづけられた。」と,言葉順の逆の諺があるとある.

『物類称呼』に収録された諺の方が,順としては正しいように思われるが.

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