2017年6月13日火曜日

アマナ (8 ) 幕末・明治・地方名 草木図説前編,増訂草木図説,救荒並有毒植物集説,地方名

Amana edulis
2017年4月
西欧植物学の渡来と共に,アマナの記述も,科学的に精密かつ詳細になってきた.しかし,漢名は本草綱目に由来する山慈姑が引き継がれていったが,『救荒並有毒植物集説』では,『植物名実圖考』と同じ「老鴉辧」が記載されており,この「老鴉辧」はアマナの現代の中国名の一つである.圖は全て NDL の公開画像より一部を引用.

中国の『本草綱目』に拠らない,西洋植物学的な植物図説の嚆矢とされている★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)』(1852頃成稿)巻之五 には,特徴をよく生かした木版画と共に,
「ムギグハ井 アマナ 山慈姑

啓蒙大小數種ノ形状ヲ説可見.根葉間莖ヲ抽キ.一二箇處ニ短小一葉或ハ二三葉
ヲ對生シ.肥タル者ハ葉腋又枝ヲ出シ.毎頂一花.大サ一寸許披針状六辧白色ニシテ.外
面暗紫ノ繊條紋アリテ正開ニ至ラズ.實礎三角頸漸延テ柱状ヲナシ.ハツユリノ
豊頸ナルト不同.雄蕋六莖圍之.ソノ稜ニアタルモホハ短ク.平面ナルハ稍長ニシテ柱頭ニ超ユ.葯暗褐色.一種葉細ク花小ニシテ.數多クツキテ頗ル穂状ヲナスモノアリ.
根襲根薤ノ如シ.
所属未詳」
とあり,次に

潤葉ムギクハヰ
北勢田野ニ多ク全形常種ト同ジケレドモ.葉稍潤短ニシテ中心一道ノ淡白斑アリ
花形殆ト同シクシテ雄蕋彼ノ如ク長短ナク.葯不長ニシテ共柱頭下ニ終ル」

とある.それぞれの圖には,Orythia eduls Miq. 及び Orythia oxypetula Kanth? とラテン名の書き込みがあるが,これは旧藏していた伊藤篤太郎による後世の書き込みであろう.

約半世紀後に四巻本として出版された★牧野富太郎校訂の『増訂草木図説』(1907 - 22)には〔補〕として牧野の最新の知見による学名の追記や科名の改訂も多いが,牧野による部分拡大図も多く加えられている.その「草部 巻五」には慾斎の本文に追記して
「○第八十二圖版 Plate LXXXII
アマナ ムギグワヰ 山慈姑
Tulipa edulis Baker.
ユリ科(百合科)Liliaceae

慾斎の本文(前節)

(一)雌雄兩蘂 (二)花蓋片,廓大圖() (三)雌蘂幷に雄蘂,廓大圖(
)本品ハ彼ノ Tulip 卽チ所謂ウツコンカウ*ナルTulipa
Geseneriana L.
属ノ我邦代表者ナリ,襲重鱗莖ハ卵狀球形ニシテ外皮赭褐色ヲ呈シ内部ハ白ク而
シテ食フベシ.葉ハ質〓カニシテ白色ヲ帯ブ.叉支那ニ産ス.本文ニ「一種葉細ク花小
ニシテ數多クツキテ頗ル穂狀ヲナスモノアリ」ト云フモノハ是レ蓋シホソバノア
マナ Lloydia triflora Baker ( = Gangea triflora Schults) ヲ指シタルモノナラン.叉本文ニ
ハツユリト云ウハカタクリヲ指スナリ(牧野)」と牧野による補足があり,図には原図にある雌雄兩蘂の他に「花蓋片」,「雌蘂及び雄蘂」の拡大図が追加されている.
*ウツコンカウ:鬱金香,チューリップの古名
更に「○第八十三圖版 Plate LXXXIII.
ヒロハアマナ ヒロハムギグワヰ
Tulipa edulis Baker var. latifolia Makino.
ユリ科(百合科)Liliaceae

慾斎の本文 (前節)

(一)花ニシテ花梗幷ニ苞ヲ伴フ(補) (二)鱗茎(補)

〔補〕本品ハアマナノ一變種ニシテ襲重鱗莖ハ其狀アマナト相同ジ葉ハ往々赤紫色ヲ帯ビ,闊キモノ幅六分ニ及ブ(牧野)
と部分拡大図と記述が追加されている.

★『救荒並有毒植物集説』京都府(1885)には,
「○あまな 百合科
 とうろうばな へらびる あまつぼろ あまいも なんきんすいせ
ん はるひめゆり共に(西京) まつばゆり むぎくはい はたくわい(濃州)
すてつぽう(筑前) うぐひす(摂州) くわい(豊前) かたすみら(肥前) ひめず
いせん 山慈姑(漢名) 老鴉辧(同) オリチア エズリス(洋名)
郊野向陽の地亦麥〓中に多し其の葉は綿棗兒に類似し粉緑色にして直立せす
斜に垂る其一葉を出すものハ嫩根にして花なく二葉を出すものは葉間より一
二花梗を抽く高さ四寸許梗頭に網小葉二三を對生し上に壹花を着け其肥地
に生するものは二三花を着く大さ七八分六辧白色にして紫色の線條あり又日
光中禅寺北海道等の産には梗梢に四五〓梗を分ち花を着くるものあり此の草
數種あれとも後ち鈍三角の實を結び五月に至り苗枯る根は圓にして外皮黒く
内褐色及白色綿の如き皮ありて白き毬根を包めりこの根を摘〓て水飛*し澱粉
を取り「カタクリ」に代へ湯にて煉り不食の病人に食せしむ此の根を煠食ふも
味佳なり山家の兒童好みて堀り食ふ支那にても亦之を食するの説あり」(「〓」は読み取れなかった文字)とあり,実用書らしく,京都地方の方言を多く記載し,救荒食品のみとしてではなく,カタクリの代りとして根のデンプンを保養薬として使う事,産地の子供たちがおやつとして好んで食するとの記述もある.
*水飛:粉体の微粒子を得るため,多量の水に分散・攪拌し,上澄みを採って乾燥させる手法

★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001
鶯が鳴く頃に花が咲くからか,うぐいす:摂州:周防.うぐいそ一:山ロ(厚狭)
鱗茎の味や形状からか,あまいも:京都.あまつぼろ:京都.からすいも:愛媛(周桑).はったんきょ:熊本(玉名)
鱗茎の食味や形状がクワイに似ているから,くわい:広島(比婆).ぐわい:広島(比婆).むぎくわい:和歌山.むぎぐわい:京都.むぎくわえ:京都
葉や花がヒガンバナ,スイセン,カタクリ,ツルボなどに似ているからか,からひがん:鹿児島.なんきんずいせん:京都.すぐら:長崎(対馬).すみら:肥前.すてっぽ-:筑前.つるぼ:丹波.かたくり:南部.かたくりな:佐渡.かたすみら:肥前.たゆり:駿河.はるひめゆり:京都.まつばゆり:江州
由来が想像できない方言は,いぐいそ-:山口(豊浦・厚狭).いくいりゅ-:山口(厚狭).いぐいりゅ一:山口(厚狭).ご-ら:周防.みずふで:姫路.
等がある.

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