2016年9月13日火曜日

ヒマワリ(8) 欧州最初期の記述.ニコラス・モナルデス.ジョン・フランプトン,フランシスコ・エルナンデス.食料・催淫作用

Helianthus annuus
2001年7月 Helianthus annuus cv. Sun rich lemon 
原産地は北西アメリカ.中央アメリカで栽培品種化され広がったと考えられ,紀元前からアメリカ大陸では食用作物として重要な位置を占めていた.ペルーでは黄色い花と形から太陽神の象徴として大事にされ,古いインカの神殿には彫刻がよく見られ,司祭や太陽神につかえる尼僧が金細工のヒマワリを身につけていた.この花を初めて見た西欧人は1532年にペルーへ進攻したFrancisco Pizarroで,スペインの進駐兵はインカの尼僧が胸につけていた黄金製の大きなブローチを貴重な戦利品とした.ペルーに多いので marigold of Peru とも呼ばれたこの花は,16世紀はじめに種が持ち帰られ,ダリアやコスモスなど,新世界の植物が最初にそだてられたことで知られるマドリード植物園で栽培が始まった.
エルナンデスの書にあるよう,米大陸では,食用・藥用としても用いられていたが,欧州ではもっぱら花の巨大さ・豪華さが注目を集めた.

1569年にスペインのニコラス・モナルデスNicolas Monardes, 1493 - 1588)がアメリカ大陸の植物に関する最初の本★“Historia medicinal de las cosas que se traen de nuestras Indias Occidentales (我が西インドより渡来した物の薬物誌)” を出版したが,その中にヒマワリ(LlBER TERTIVS. 21DE HERBA SOLIS)が出てくる.(下図,左端:表紙,右端上部:本文).これが歐州最初のヒマワリの記述とされている.

その後,この書をジョン・フランプトンJohn Frampton, 16世紀後半に活躍した翻訳家)が 1577年に英語に翻訳して★Joyfullnewes out of the New-found Worlde, Amerikaanse planten en medicijnen.(新発見の世界からきた楽しい知らせ-アメリカの植物と薬物)” という題で出版した(下図,中央部:1596年版の表紙,右端下部:本文).

フランプトンは原著の「太陽草 "Hearbe of the Sunne”」の章を
“Of the hearbe of the Sunne.
This is a notable hearbe, and although that nowe they sent mee the seede of it, yet a few yeeres paste we had the hearbe here. It is a strange flower, for it casteth out the greatest Blossomes and the moste particulars that ever have been seene, for it is greater then a greate Platter or Dishe, and hath divers coloures. It is needefull that it leane to some thing, where it growth, or els it will bee alwaies falling. The seede of it is like to the seedes of a Mellon, somewhat greater, the flower dooth turne it selfe continually towardes the Sunne, and for this cause they call it by that name, as many other flowers and Hearbes doo the like: it sheweth marvelleus faire in Gardens.” と英訳している.
「これは注目すべき植物である.彼らが種を送ってきてから,ここで数年育てている.これは,変わった花である.というのは,とても大きな花をつけるからである.しかもこれまでに見たこともないほどの特徴は,平皿や大皿よりも大きい花をつけ,変わった色の花をつける事である.成長したら支柱に寄りかからせる事が必要で,そうでないといつも倒れてしまう.種子はメロン(ウリ)の種のようで,幾分か大きい.花は自分自身で,常に太陽の方向を向くので,その名(hearbe of the Sunne, 太陽草)があるが,多くの花や植物が同様の行動をとる.庭園の中で見ると非常にすばらしい(私訳)」とありモナルデスが 1569 年より数年前に種を入手し,育てていた事がわかる.
また,花の大きさ・豪華さに力点を置いていて,種が食べられることは,分からなかったらしい.さらに,花が太陽を向いて咲くのが名の由来とは言っているが,若い花や蕾の運動については言及していない.

Rerum medicarum Novae Hispaniae - - (BHL)
また,書籍としての刊行は17世紀ではあるが,執筆者の死亡年から,原稿が上記記録と同時期と思われるのは,スペイン王フィリップ二世のために,15701575年にメキシコの動植物探索を行ったスペイン人の医師フランシスコ・エルナンデス・デ・トレド(Francisco Hernández de Toledo, 1514 1587) の著作で,彼の死後 1651年にローマで出版された★"Rerum medicarum Novae Hispaniae thesaurus, seu plantarum, animalium, mineralium mexicanorum historia"1651)には,“De CHIMALATL* PERVINA, Flore Solis” という名で,メキシコでの名称(CHIMALATL),食用や藥用として用いられ,催淫作用があることを述べ,更に茎が一本で大きな花を一つつける種と,枝分かれしていくつかの小ぶりな花をつける種(Flore solis minor)の二種のヒマワリが絵と共に記載されている.
*かつてアステカ人や周辺のインディオが使っていたナワトル語(nāhuatl)でヒマワリの意.

即ちこの書の p 228, Cap XV De CHIMALATL PERVINA Flore Solis の項には(左図)(以下私訳)
CHIMALATL Peruina, あるいは Anthilion また,太陽花(Florem Solis)と呼ばれる.
葉は裏面が白っぽく大きく,鋸歯があり,形はイラクサに似ている.
莖は一本で 15 フィート程に直立し,幹は腕の太さで中空で,緑色をしている.
先端には 9 インチ程の大きさの円形で,周りに黄色い花弁がついていて,中心部は赤色を帯びた,黄金色に輝く花をつける.(中心部は)花粉が満ちて黄色になっている小さな花が,まるで蜂の巣のように順番に従って置かれている.
種はメロンの種に似た形で,やや丸く,柔らかい.根は塊状根である.
種子は食用になるが,多食すると頭が痛くなる.しかしこの種子は胸の痛みや胸やけも治療する.これを砕いて,ローストしてパンに混ぜる人もいる.また,催淫作用があるとも言われている.
また,柔らかい葉の毛を取って,地方の平野や森林地で生育するが,特に森林地の畠で大きく育つ.
別の種が観察された.幹は短く細く,二三本もしくはそれ以上の枝を出し,夫々の先端に前の種に似た花をつけるが,ずっと小さい.

Flos Solis:欧州に渡来してから数年たつが,(詳しいことは)殆ど知られていない.しかし多くの,葉のサイズや,花や,高さや厚さ,時々白い花が見られる花の色などでの変種が認められる.クルシウスの著作とともに,モナルデスの著作の 68 章を参照するとよい.
とある.
なお,最後の斜体の文は出版時(1651年)に編者,イタリアのアッカデーミア・デイ・リンチェイの会員,コロンナ(Fabio Colonna)らによって追加されたと思われる.
また挿図は,現地人の3人の画家,Baptized Antón,Baltazar Elías,Pedro Vázquez に描かせたとある(J-Wiki).

また,★ウィルフリッド・ブラント,森村健一訳『植物図譜の歴史 芸術と科学の出会い』(1986)八坂書房 の「第6章 木版画の衰退」には「スペインのフェリぺ二世の侍医、フランシスコ・エルナンデスの遺著『宝庫』(Thesaurus 一六五一年)の中に、ダーリア、すなれちエルナンデスが [cocoxochitl] と名づけた花の興味深い図が載っている(図49)。メキシコではその時すでに一重も八重も含めてさまざまな花色のダーリアが栽培されていた。エルナンデスは一五七一年から一五七七年までメキシコにおり、アヤメ科のティグリディアも初めて図示されたが(図49・左*)、こちらの方は十八世紀末にいたってやっとヨーロッパに導入された。(中略)何百点ものエルナンデスによる植物図が、かつてはエスコリアル*に保有されていたが、一六七一年の火災で焼失した。」とある.
*エスコリアル:スペイン,マドリード近郊にある王立サン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル修道院

上図の種が Helianthus var. macrocarpus, the giant sunflower (cultivated for its edible seeds),下図の小さな種は H. lenticulari, the wild sunflower もしくは H. annuus var. annuus, the weed or ruderal sunflower と考えられる.

種が食用となるが,多食は頭痛を誘起するとの記述は,中国の★王路『花史左編』(1617と,また,花の中央部の管状花の配列が,蜂の巣と似ているとの記述は,後世の欧州本草書や,中国の★呉其濬 (1789-1847)『植物名實圖考』(1848) の記述と一致して,興味深い.なお,エルナンデスの書以外の欧州の古い本草書には,種を食用にするとの記述は認められない.


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