2016年6月15日水曜日

マツバボタン-2  別名,地方名.牧野植物図鑑・図説草木名彙辞典・日本植物方言集成 日照,爪,不滅

Portulaca grandiflora
1990年7月
鮮やかでバリエーションに富む花色,一日花ながら次々と咲き続ける期間の長さ,日照にも堪え,一旦根付けば,こぼれ種で毎年花が咲く強健さから,渡来後短期間で全国に普及した.

マツバボタンの名は,伊藤圭介にその植物画が認められた幕末-明治初頭の植木屋,★柏木吉三郎(1799 - 不明)がつけた(マツバボタン-2 追補 柏木吉三郎 『亜墨利加草類図』 松葉牡丹と命名)が,葉と花の特徴をとらえたよい名前だと思う.これ以外にも多くの別名・地方名を持つ.とくに,爪で切った茎を挿せば根付く事や,葉が爪の切りくずに似ている事からか,爪に関連すると思われる名前や,日照でも花が咲き続ける強さに由来する名前が多い.

大植物図鑑 村越三千男 編  (1925)
★牧野富太郎『牧野植物図鑑 初版』(1940)には,「まつばぼたん 一名 ほろびんさう Portulaca grandiflora Hook. 蓋シ弘化年間頃ニ渡來セル花草ニシテ普通ニ人家ニ栽培セラルル年米原産ノ一年生草本ナリ.(中略)和名ハ松葉牡丹ニシテ松葉ハ葉形,牡丹ハ花状ニ基ク.不亡草ハ此草一度種ウレバ年々子生シテ永ク絶滅セザルヲ以テ斯ク云フ.」とあり,渡来時期は弘化年間としている.

★木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 (1991) の「まつはぼたん【松葉牡丹】 マツバボタン スベリヒユ科の一年草(栽培)」の項には,「別/花松菜(はなまつな)・牡丹(ぼたん)・松牡丹(まつぼたん)・岩牡丹(いわぼたん)・鷹爪(たかのつめ)・爪切草(つめきりさう)・花甘藍(はなかんらん)・日中花(にっちゅうばな)・亡草(ほろびんさう)・不亡草(ほろびんさう)・不滅草(ほろびんさう)・日向草(ひなたぐさ)・日和草(ひよりさう)・日照草(ひでりぐさ)・亜米利加草(あめりかさう)・ひるてるさう・ちりんさう」と多くの別名が記載され,更に「漢/半支蓮・龍鬚牡丹. 來/ブラジル原産で弘化年間(一八四四〜四八)アメリカより渡来.用/観賞、食用(茎葉),季/夏」とあり,渡来は米国から弘化年間と,万延元年(1860)の渡米使節歸国より早いとしているが,上述の牧野植物図鑑に拠っているのであろう.また,スベリヒユと同属であるので,当然といえば当然だが,食用にできるとある.

日本各地に速く広がり,多くの地方で愛されたため,明治以降に栽培され始めた植物としては異例に多い別名・地方名を持つ.★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には,120 個以上の地方名が記載されている.ちなみに同時期に渡来したヒャクニチソウの地方名も多いが,同書によれば 37 個であり,マツバボタンのそれは,ヒャクニチソウの三倍以上に當る.便宜的に推定由来から分けると.

1.異国情緒いっぱいだからか,渡来地に由来するのか,◆あめりかそ-:静岡(小笠),新潟,三重(宇治山田市),島根(出雲),山口(阿武)/あめりかひょ-:山形(東置賜・西置賜)/あめりかぼたん:山形(東田川)新潟/からくさ:和歌山(新宮)/からび:新潟(刈羽)/からびょ-:山形(西村山・北村山)〔「ひょー」とは「ひゆ」の転訛で「スベリヒユ」の事.山形県では「ひょう」を一種の山菜として扱い,茹でて芥子醤油で食べ,また干して保存食にもされた.〕

2.一日花や,一茎に一輪ずつ咲く特性からか ◆いちにちそ-:新潟/いちりんそ-:香川

3.指や爪で茎をちぎって挿せば,簡単に根付いて増やせることからか ◆いちきりそ-:高知 /ちみぎりしょ:三重(員弁) /ちみぎりそ-:兵庫(津名・三原),山口(豊浦),愛知(知多) /ちめきりそ-:岩手(九戸) /ちょ-ちこ:島根(隠岐島) /ちょんぎりぐさ:新潟 /つききりそ-:山口(厚狭・豊浦) /つきみそ-:静岡(小笠・浜名) /つけぎりそ-:三重(桑名) /つまぎりそ-:愛知(海部) /つみきりぐさ:鹿児島 /つみきりそ-:石川(江沼),長野(上伊那),岐阜(飛騨),静岡(小笠・浜名),兵庫(津名),山口(吉敷・厚狭・豊浦),徳島 /つみぎりそ-:愛知(知多) /つみきりぼたん:長崎(壱岐島) /つめきり:岩手(九戸),福島,福井(今立),兵庫(加古) /つめきりそ-:青森,長野(佐久),岐阜(飛騨),静岡(富士),兵庫(赤穂・加古),石川(江沼),和歌山(海草・日高),山口(大島・吉敷・美祢・大津・阿武)高知 /つめぎりそ一:三重 /つめじそ一:長野(佐久) /つめりぐき:和歌山(日高) /つめりしょ:長野(佐久) /つめれしょ:長野(佐久) /つんき-:鹿児島(鹿児島・谷山) /つんき-くさ:鹿児島(肝属・鹿児島) /つんき-ぐさ:鹿児島 /つんきり:富山(射水・高岡市) /つんきりぐさ:鹿児島(肝属))

4.炎天下の日向で元気に花をつけるからか いでりそ-:山口(佐波)/お-ひぐらし:山口(大島)/おてんきそ-:埼玉(入間),東京(八王子),神奈川(津久井)/おひでりそ-:愛媛(周桑)/てんきそ-:栃木,群馬(勢多・佐波),埼玉(北葛飾),神奈川(愛甲)/にちりんそ-:奈良(宇陀・北葛城),山口(豊浦),徳島/にちれんそ-:福井(今立)/にっちそ-:愛媛(東宇和)/にっちゅ-ばな:和歌山(新宮市),新潟/にっちゅぐさ:熊本(玉名)/ひ-てるそ-:愛媛(周桑)/ひぐらし:山口(大島)/ひぜりそ-:山口(佐波・美祢)/ひでりくさ:島根(邇摩・鹿足)/びでりぐさ:兵庫(佐用),島根/ひでりこ:岩手(水沢),山口(大島)/ひでりこ-:山口(大島)/ひでりそ-:岩手(東磐井),新潟,群馬(勢多),静岡(志太),三重(志摩・宇治山田市),島根,島根(美濃・鹿足・邇摩),岡山,山口(大島・玖珂・熊毛・都濃・佐波・吉敷・厚狭・豊浦・美祢・阿武),香川(木田・高松市),愛媛,高知,高知(幡多),福岡(築上),大分/ひでりば:山口(吉敷)/ひでりばな:山形(東田川)/ひでんそ-:島根(邇摩),山口(大島)/ひなぎく:山口(美祢)/ひなたぎく:山口(美祢)/ひなたぐさ:兵庫(赤穂)/ひなたそ-:静岡(小笠),愛知,奈良,和歌山(和歌山)/ひぼたん:愛媛/ひゃくにちそ-:徳島,徳島(美馬)/ひよりぐさ:山口(吉敷)/ひよりそ-:島根(石見・那賀)/ひよりばな:秋田/ひるきざ:山口(阿武)/ひるてるそ-:愛媛(松山市・周桑)/ひるべる:岐阜(恵那)/ひるべろ:岐阜(恵那)/ひれりそ-:山口(佐波)

5.牧野博士が別名として挙げたように,一度根付くとこぼれ種で毎年花を咲かせることからか ころびそ-:愛媛(松山)/ほろび-そ-:山口(玖珂)/ほろびし:宮城(仙台市)/ほろぴんそ-:高知/ほろべし:宮城(登米・仙台市),山口,高知/ほろべそ:宮城(仙台市)/ほろべっそ-:宮城(仙台市)

6.花容が牡丹を彷彿とさせることからか,あめりかぼたん(再):山形(東田川)新潟/いぎぼたん:山口(阿武・玖珂)/いわばたん:青森(八戸・三戸),千葉(市原),新潟(中蒲原),静岡(富士),福岡(久留米・三井・三瀦・浮羽)/えわぼたん:青森/かやぼたん:新潟(西蒲原)/からぼたん:新潟(佐渡)/くびぼたん:山口(大島)/つゆぼたん:山口(都濃)/なつぼたん:島根(鹿足),広島(安芸・高田)/にわぼたん:群馬(佐波)/はなかんらん:山口(豊浦・大津)/はなぼたん:山口(豊浦・美祢)/はぼたん:山口(豊浦・美祢)/ぼたん:山口(阿武)/まつばぎく:山口(熊毛)/まつばぐさ:山口(都濃)/まつばそ-:静岡(小笠),山口(厚狭)/まつぼたん:青森,和歌山(東牟婁),山口(熊毛),愛媛(新居)

7.解釈に困るが,なんとなく草姿や(茹でた時の)食感を連想させる名前としては, いしがらまき:岩手(紫波)/いみりくさ:福岡(築上),熊本(玉名)/いみりぐさ:福岡(築上)/いわざく:岩手(気仙)/えすからまき:岩手(盛岡)/きんぎんそ-:福島(相馬・中村)/くさつめれしょ:長野(佐久)/すっぽんそ-:山口(岩国市・玖珂)/すっぽんてん:山口(玖珂)/すべり:和歌山(田辺市・海草)/たかのつめ:愛知(西春日井)/ちりんそ-:岩手(上閉伊・釜石)/ちりんちりん:岩手(遠野・上閉伊)/つるんつるん:岩手(遠野)/ちんちくだんちく:新潟/てれめんそ-:静岡(志太)/てれんそ-:香川(大川)/どんどろびし:香川/ぬだりこ:岩手(紫波)/ねこずみ:群馬(群馬)/ねなし:群馬(佐波),愛媛(喜多)/ぶるてりそ-:山口(都濃)/へ-ろへ-そ:和歌山(新宮)/べんばな:新潟(岩船)/はいてる:三重(津・安芸)/は-きらん:和歌山(西牟婁)/は-ろへ-そ:和歌山(東牟婁)/はって-ろ:鹿児島/ほるてる:三重(宇治山田市・津)/ほろちらん:山口(阿武)

と数多く記録されている.沖縄と北海道の方言は収載されていない.なお,沖縄には,オキナワマツバボタン(Portulaca okinawensis. syn. P. pilosa ssp. okinawensis)という,固有種が分布している.

マツバボタン-1 日本への渡来.天保度後蠻舶来草木銘書,植物渡来考,遠西舶上画譜,新渡花葉図譜,モース "Japan, Day by Day"
マツバボタン-2 追補 柏木吉三郎 『亜墨利加草類図』 松葉牡丹と命名

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