2014年6月3日火曜日

ユキノシタ (4/5) ゲオルグ・マイスター,ケンペル,リンネ,ツンベルク,伊藤圭介 キシンソウは鬼神草?,カーチス 学名原記載文献

Saxifraga stolonifera (Syn. S. sarmentosa)
2013年6月 茨城県南部 植栽
ユキノシタを,ヤマブキなど日本の多くの植物と共に欧州に紹介した最初の書物は,出島のオランダ商館の庭園技師として,168283, 168586の二回に渡り合計2年間ほど滞日した★ゲオルグ・マイスターGeorg Meister, 1653-1713)の『東方・インドの庭園技師 (Der Orientalisch=Indianische Kunst= und Lust=Gärtner)(1692) であろう.

この書ではほぼ90種に及ぶ日本の庭園植物のみならず,日本の自然を取り入れた造園法を紹介し,後のイングリッシュガーデンに影響を与えたとされている.その中では,ユキノシタは “Kysinso (きしんそう)と記載されている (p172).記述もあるが鬚文字のドイツ文なので読解できなかった(左図, Universitäts- und Landesbibliothek Sachsen-Anhalt).
この書はケンペルに先立つ日本植物のまとまった紹介書であるが,ドイツ語で書かれたためか,マイスターが植物学の教育を受けていなかったせいか,リンネの著作などに引用されてはいない.

出島の医師として,1690 – 1692年に滞日し,江戸にも参府した★エンゲルベルト・ケンペルEngelbert Kaempfer, 1651 - 1716)の『廻国奇観』(Amoenitates Exoticae , 1712p.870 には,石荷 Sekika, vulgo Kisinso, it Jukinosta.”として,漢名の「石荷」と共に,「俗にキシンソウ,またユキノシタ」と和名も記録されている(右図,KUL).

Saxifraga sarmentosaという学名が発表されたのは★リンネCarl von Linné, 1707- 1778)の “Supplementum plantarum Systematis vegetabilium (Apr 1782 (1781 on titlepage)). p.240. “ で,そこには,“DECANDRIA. DIGYNIA. SAXIFRAGA. sarmentosa. - - - Habitat in Japonia. Gordon, Hortul. Londin. , H. U. - - - “ ( (Jupiter = perennial))” とあり,日本に産することが記載されている.” Gordon, Hortul. Londin.” とは,標本を提供したロンドン園芸協会のゴードンさんの事かとも思うが判明せず(左図).

出島の医師として,1775 – 1776年に滞日し,多くの日本の植物を恩師リンネの体系によって分類し,学名をつけた★カール・ツンベルク (Carl Peter Thunberg, 1743-1828) の『日本植物誌』(Flora Japonica, 1784, p182)には,
“Saxifraga. sarmentosa. S. foliis inciso-lobatis pilosis, caule subnudo erecto paniculato. Saxifraga sarmentosa, Linn. suppl. Syst. P.240.
Japonice: Sekika, vulgo Kisinso, i.e. herba Diaboli; Kisin enmi Diabolum significat. Item Jukinosta, seu Juki no Sita i. e. sub nive sita vel crescens herba; Juki namque nevem et Sita herbam siguificat. / Sekika, vulgo Kisinso, it Jukinosta. Kaempf. Am. Ex. Fasc. V. p.870.  / Crescit  iuxta Nagasaki prope aquas, in insula Nipon vulgaris locis montosis et humidis inque lapidibus.
Floret  Maio, Junio. - - - .” とあり(右図),「長崎と本州の水辺や山地湿地に生育し,毛の多い厚い葉を持ち,花茎を挙げて穂状の花を五月から六月につける.俗名のキシンソウは鬼神の草,ユキノシタは雪の下でも生育する草の意味」と記している.


このツンベルクの『日本植物誌』に所収された植物を,シーボルトの指導を受け,学名のアルファベット順に配列し,その和名・漢名を記した★伊藤圭介訳述『泰西本草名疏』(1829)には,
SAXIFRAGA SARMENTOSA LINN. ユキノシタ 虎耳草
 [RUNIFRAGA SARMENTOSA. TH. ユキノシタ  ]
とある.[ ]は,別説を示すと凡例にあり,RUNIFRAGA はツンベルクがユキノシタに与えた属名と考えられるが,不明(左図 NDL).

ユキノシタは欧州産のユキノシタ科の植物とは特に湿性を好み,ランナーで増え,柔らかい葉に模様がある点が大きく違うためか,欧州の園芸家や植物学者の興味を引いた.また,園芸植物としても,ハンギング・バスケットなどに広く用いられた.


なお,米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名学名インデックス」(YList)で標準とされているユキノシタの学名,Saxifraga stolonifera Curtis の原記載文献 Phil. Trans. Lond. ser. B, 64(1): 308, no. 2541 (1774) の画像は右の如くで,既にこの時期にユキノシタが英国に入っていたことが分かる.この学名の命名者 William Curtis は "Curtis’s Botanical Magazine" の刊行者 W. Curtis と同一人物なので,Curtis’s Botanical Magazine Vol. 3(1789) で,ユキノシタに Saxifraga sarmentosa L. の学名を用いているのと矛盾するように思われるが,あるいは同じ植物との認識がなかったのかも知れない.

ユキノシタ (5/5) 英国への導入,英名,ロバート・フォーチュン,変わり葉種,草木奇品家雅見,草木錦葉集

ユキノシタ (3/5) 耳の疾患への薬効伝承,方言,畸人草,キジンソウ

0 件のコメント: