2013年9月22日日曜日

シュロソウ(3/3) 薬効 本草綱目・和漢三才図会・本草綱目啓蒙・原色日本薬用植物図鑑・薬草カラー図鑑

Veratrum maackii
2010年7月 高峰山
シュロソウは薬草として古くから使われ,正条品は,Veratri nigrum L.(中)黒黎芦であるようだが,中薬の「藜蘆(りろ)」に比定されていた.根は有毒ではあるが,吐薬としての作用が大きく,また,殺虫効果も利用された.後者の作用は,バイケイソウ,コバイケイにもあるので,此れも「藜蘆(りろ)」の一種とされた.また,北海道のアイヌの人々は,茎の基部の白い部分をゆでてあるいは蒸して食べたそうだ.

★明の李時珍選『本草綱目 草部毒草類 藜蘆の項』(初版1596)
【氣味】辛,寒,有毒。《別錄》曰︰苦,微寒。普曰︰神農、雷公︰辛,有毒;岐伯︰ 咸,有毒;李當之︰大寒,大毒;扁鵲︰苦,有毒。
時珍曰︰畏蔥白。服之吐不止,飲蔥湯即止。
【主治】蠱毒咳逆,泄痢腸 ,頭瘍疥瘙惡瘡,殺諸蟲毒,去死肌(《本經》)。療噦逆,喉痺不通,鼻中息肉,馬刀爛瘡。不入湯用(《別錄》)。 主上氣,去積年膿血泄痢(權)。吐上膈風涎,暗風癇病,小兒 痰疾(頌)。末,治馬疥癬(宗 )。

★寺島良安『和漢三才図会 巻第九十五 毒草類 藜蘆の項』(1713頃),現代語訳 島田・竹島・樋口,平凡社-東洋文庫
『本草綱目』(草部毒草類藜蘆〔集解〕)に次のようにいう。
(中略)
根〔辛、寒。あるいは苦で毒ありともいう〕 上隔の風涎・疳病を吐(排出)する。吐薬にもいろいろある。
常山は[瘧痰を吐する〕、瓜丁(うりのへた)は〔熱痰を吐する〕、烏附尖(うふせん,カラトリカブト・天錐のことか)は〔湿痰を吐する〕、萊菔(だいこん)子は〔気疾を吐する〕、藜蘆(りろ)は風疾を吐するものである
〔黄連(山草類)を使(補助薬)とする。芍薬・細辛(山草類)・人参・沙参・紫参・丹参・苦参に反し、大黄を悪(い)む。葱白を畏れる〕。これを服用して吐が止まらなければ、葱湯(ねぎゆ)を飲むと止まる。(後略)

バイケイソウ 2007年7月 日光霧降高原
★小野蘭山『本草綱目啓蒙 巻之十三 草之六 毒草類 藜蘆の項』 (1803-1806) 
(中略)種樹家ニ、バイケイサウト呼。予州ニテハ蝿ノドクト云。江州比良山中ニ多シ。春早ク宿根ヨリ芽ヲ出ス。故ニユキワリト云、又ユキワリノ藜蘆ト云。円茎高サ三四尺、葉互生ス。形萎蕤(アマドコロ)葉ニ似テ、大也。縦文多シ。茎上ニ穂ヲ出スコト一尺許、枝ヲ分テ花ヲヒラク。形日光ランノ花ニ似テ、大サ小銭ノゴトシ。五弁ニシテ梅花ニ類ス。故ニ、バイケイサウト名ヅク。色白クシテ微緑ヲ帯、臭気アリ。コノ根日光ランヨリ塊大ニシテ蒜(ニンニク)根ニ似テ小ク、蘆頭ニ椶毛ナシ。根下ニ粗キ鬚多シ。味辛ク黄白色。飯ニ雑へ蝿ニ飼へバ死ス。故ニ、ハイノドクノ名アリ。(後略)

★木村康一/木村孟淳『原色日本薬用植物図鑑』保育社(1991)
これらの植物(*,バイケイソウ,コバイケイソウ)の根および根茎を藜蘆(りろ,Veratri Rhizoma)と呼び,催吐および瀉下薬として用いられたが,今日ではあまり用いられていない。同属植物から抽出した粗アルカロイド混合物は血圧降下の作用があり,一時応用されたことがあるが,嘔吐などの副作用があるため,使われなくなっている。成分はアルカロイドのVeratramine,rubijervine,11-deoxojervine,solanidine,baikeine,baikeidineおよびステロイドのβ-sitosterolなどが見いだされている。
中国産のものは Veratri nigrum L.(中)黒黎芦を正条品とし,バイケイソウなど7~8種類が原植物としてあげられている。北米の V. viride Aiton(英)green hellebore,(中)緑藜蘆,およびヨーロッパの V. album L(英)white hellebore(中)白藜蘆は血圧降下作用の認められる protoveratrine-A,および –B を含み,総アルカロイドを血圧降下薬として欧米では用いている。

★伊澤一男著『薬草カラー図鑑』主婦の友社 (1990)
中国産の亜種:中国産の毛穂藜蘆はシュロソウに近く、わが国の シュロソウは、この亜種または変種になっている。オオシュロソウに近いのは、中国で藜蘆、または黒藜蘆と言われる種類で、中国ではこれら数種の根茎を乾燥した生薬を藜蘆と称している。 採取時期と調整法:5~6月ごろ、開花前のつぼみのときに地下の根茎を掘り、水洗いして刻み、日干しにする。 成分:毒成分のベラトルーム・アルカロイドのジェルビンが含まれる。 薬効と用い方: 殺虫用・便壷などのうじ虫殺しに:乾燥した根茎を適当量、便壷に投入する。 ★毒成分が強いので、内服はしない。

★乾芳宏『新冠町郷土資料館調査 報告書3』によれば,沙流、新冠地方のアイヌの人々は,茎の基部を「ヌペ núpe」と呼んで,茎の基部の白い部分をゆでてあるいは蒸して食べた。(アイヌ民族の有用植物:独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター北海道研究部)

現在でも有効な学名 Veratrum maackii をつけたのは,ドイツの園芸学者・植物学者の Eduard August von Regel(エデュアルト・アウグスト・フォン・レーゲル,1815 - 1892)で,ロシアの帝立植物園の園長であったころに,ロシア極東地域で採取されたシュロソウに命名したと考えられる.
原記載文献:Memoires de l'Academie Imperiale des Sciences de Saint Petersbourg. Ser. 7. 4(4) [Tent. Fl. Ussur.]: 169, t. 11, f. 8-14 (1861)

シュロソウ (2/3) 藜蘆(りろ)花木真寫・物類品隲,花彙,本草綱目啓蒙,物品識名,日光山草木之図,梅園百花図譜,増補古方薬品考,草木図説前編

シュロソウ (1/3)  藜蘆(りろ),延喜式,本草和名,和名類聚抄,多識編,草花絵前集,大和本草,和漢三才図会,広益地錦抄

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