2013年9月11日水曜日

シュロソウ (2/3) 藜蘆(りろ)花木真寫・物類品隲,花彙,本草綱目啓蒙,物品識名,日光山草木之図,梅園百花図譜,増補古方薬品考,草木図説前編

Veratrum maackii
2008年8月 榛名ユウスゲの道
承前
江戸時代には「日光蘭」の名で庭園で観賞用植物としての評価が高く,栽培され,多くの美しい図譜として残されている.
一方,「藜蘆」の薬草としての需要は大きかったようで,薬店で万年青(オモト)やツクバネソウの根がこの名で売られていた. 多くの草木図譜や本草書にシュロソウは「藜蘆」「日光蘭」の名前で記載されていたが,幕末になってもバイケイソウ,コバイケイソウも「藜蘆」とされていた.

近衛豫樂院(1667–1736)『花木真寫』(1736年以前の成立)
「椶櫚草」(シュロソウ)(左図)

平賀源内『物類品隲』(1763)
「藜蘆 和名シユロソウ又日光蘭ト云○日光産上品花紫黒色又白花ノモノアリ」(下図,左端, NDL)

★小野蘭山『花彙 草之部二十』(1765)
「藜蘆(リロ) シュロサウ 日光蘭  江州膽吹(イフキ)山及山州蟻カ池ノ邊ニアリ三月ニ苗ヲ生ス高サ二尺許棕櫚(シュロ)ノ苗及崖椶*(ヒトツホクロ**)ニ似テ茎葱(ヒトモシ)ニ似テ青紫色根ノ上黒皮茎○(ツヽム)椶毛ニ似タリ六七月一茎ヲヌキ花ヲ開ク肉紅色芲ノ形隠忍花(ヒナキヽヤウ)ノ如シ」 (下図,左より二つ目,NDL)
 *カヤツリグサ科イトスゲ,** ラン科ヒトツボクロ

★小野蘭山『本草綱目啓蒙 巻之十三 草之六 毒草類』(1803-1806) 
「藜蘆 シユロサウ 日光ラン (中略)
江州伊吹山ニ多シ。又野州日光山殊ニ多シ。故ニ種樹家ニテ日光ラント云。春、宿根ヨリ苗ヲ発シ、数葉叢生ス。葉濶サ五六分、長サ一尺許、深緑色、縦ニ皺多クシテ椶秧(シュロノナヘ)ニ似クリ。年ヲ経タルモノハ葉漸ク濶ク、三四寸ニイタリ、ヱビネノ葉ノゴトク、初出ノ葉細キニ異ナリ。夏月、別ニ一茎ヲ抽ヅ。長サニ三尺、小葉互生シ、上ニ枚ヲ分テ花ヲヒラク。紫黒色、形白微(フナバラ)花ニ似テ大サ三四分、六弁。臭気アリ。後ニ短扁莢ヲ結ブ。中ニ小実アリ又黄花ノモノ、白花ノモノ稀ニアリ。コノ根葱根ニ似タリ。故ニ集解ニ葱白藜蘆ト云。根下ニ粗キ鬚根多シ。晒シ乾セバ味辛薟。蘆頭ニ黒毛アリ、椶毛ノ如クニシテ苗本ヲツヽム。古渡ニ此ノ如ク椶毛ニテ包ムガ如キモノアリ。今ハ渡ラズ。今渡ルモノハ毛ニテ包マズシテ根大ナリ。コレ本草原始ノ蒜藜蘆ナリ。
種樹家ニ、バイケイサウト呼。予州ニテハ蝿ノドク上云。江州比良山中ニ多シ。春早ク宿根ヨリ芽ヲ出ス。故ニユキワリト云、又ユキワリノ藜蘆ト云。円茎高サ三四尺、葉互生ス。形萎蕤(アマドコロ)葉ニ似テ、大也。縦文多シ。茎上ニ穂ヲ出スコト一尺許、枝ヲ分テ花ヲヒラク。形日光ランノ花ニ似テ、大サ小銭ノゴトシ。五弁ニシテ梅花ニ類ス。故ニ、バイケイサウト名ヅク。色白クシテ微緑ヲ帯、臭気アリ。コノ根日光ランヨリ塊大ニシテ蒜(ニンニク)根ニ似テ小ク、蘆頭ニ椶毛ナシ。根下ニ粗キ鬚多シ。味辛ク黄白色。飯ニ雑へ蝿ニ飼へバ死ス。故ニ、ハイノドクノ名アリ。
古ヨリ藜蘆ヲ誤テヲモトヽ訓ズ。故ニ和方書ニ藜蘆トイフハ皆ヲモトヲサス。ヲモトハ万年青ニシテ藜蘆ノ類ニ非ズ。万年青ハ秘伝花鏡ニイヅ。一名菖(同上)千年菖(汝南圃史)万年春(本草新編)人家庭前ニ多ク裁、幽谷ニ自生アリ。薬家ニハコノ根ヲ斜ニウスク切乾テ藜蘆ト名ケ売。ツネニ柔潤ニシテ燥ズ。先年舶来ニコノ偽アルニ困ナリ。然レドモ藜蘆ニ代用ベカラズ。万年青ニモ殺瘵虫、治猘犬傷(箋解)ノ効アリ。
又薬当子一名延齢草ノ根ヲ、唐ノ藜蘆ニ偽売モノアリ。コレハ昧苦シテ殺虫ノ効アリ。王孫*ノ一種ニシテ藜蘆ノ類ニアラズ。〔附録〕山慈石、詳ナラズ。参果根、詳ナラズ。馬腸根、詳ナラズ。」 *ツクバネソウ

★岡林清達・水谷豊文『物品識名 巻坤』(1809 跋)
「シユロサウ 藜蘆 山椶 薬性要略大全」(上図,右より二つ目, NDL)

★岩崎灌園『日光山草木之図 巻之二』(1824)
「日光らん」(上図右端, NDL)

★毛利梅園(1798 – 1851)『梅園百花図譜 夏乃三』(1825 序)(他人の絵の模写が多い江戸時代博物図譜のなかで,大半が実写であるのが特色)では,多識編や本草綱目の藜蘆の項の記述を引用した後
「藜蘆 今云シユロサウ 日光ラン 保々都久利
数種有。円葉。長葉 此●スル者根連珠有ル者。篠ツクリ根無。薹(トウ)ツタリ一根一ハ半夏ノ根ニ似リ。
予曰 藜蘆ヲヲモトヽ訓スルハ非ナリ ヲモトハ万年青ナリ 別物 藜蘆ハ葉紫蘭白蘭ニ似タレハ日光蘭ト云 国俗山名●●通日光山・多ク生故ニ日光蘭ノ名アル ●ヲモトトヒスルハヨリドコトナキ 和漢三才図会,藜蘆(エビ子)トス是亦非也 他楡草(エビ子)ハ別ナリ 藜蘆夏部巻七ニ奇品再出」(● 判読不能であった)とある.(左図,左側, NDL)
『同図譜 夏乃七』には,白色の花をつける「藜蘆」の変種と称する植物の図が載るが,本体は不明,コバイケイソウかも知れない.(左図右側, NDL)

★内藤尚賢『増補古方薬品考 巻之一』(1842)
「藜蘆 肌ヲ療ス.服レハ痰水ヲ吐ス.シユロサウ 一名葱苒 [本経曰](中略)[藜蘆甘草湯](中略)
[撰品]藜蘆二三種有リ其形青葱(子ギ)ノ茎ニ似テ而毛有紫黒色ノ者真.[釈名]謂所葱管藜蘆是也.又蒜藜蘆(バイケイサウ)苗葉萎蕤ニ似テ而肥大夏白花ヲ開ク六弁 薬用ニ入ラ不.今薬舗ニ販ク者此レ万年青(オモト)ノ根ニテ眞ニ非 ○葱管藜蘆春芽ヲ生ス.葉ハ初生椶櫚(シュロウ)ニ似テ而長ク縦文有リ.茎本ニ毛有リ.茎ヲ裏ハ棕竹(シュロチク)ノ如シテ.夏中心一茎ヲ抽ルコト二三尺枝ヲ岐チ花ヲ開ク.六弁紫黒色.花後實ヲ結ブ.」(右図左側,NDL)

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)巻之二十』(成稿 1852頃,出版 1856 - 62)
「第二十三綱 有雄花雌雄両全花
シユロサウ 藜蘆 葱管藜蘆
往々山中ニ生.伊吹山ニモ多シ.春芽ヲ出シ数葉●生シ.長一尺余濶一二寸.夏月葉間茎ヲ抽クコト二三尺小葉ヲ互生シ.上ニ枝ヲ分シ穂ヲナシテ花ヲ開ク.無萼六弁.々本厚ク薄クシテ紫黒色.子室三箇相接シ.頭外及シ.雄蕊六ニシテ葯黄粉ヲ吐ク.此種三性花ヲ交ヘ開クコトバイケイサウト同シ.根形亦同シケレトモ此種ニハ黒色棕毛ノ如キアツテ多ク根上ヲ包ム.一種花緑色ナルアリ又一種小ニシテ尺許ナルアリ 或云白花亦アリト余未見 附全ハナ郭大図
第二種
Veratrum nigrum 羅  ??? ??? 蘭」(上図右側,NDL)
(● 判読不能であった)

シュロソウ (1/3)  藜蘆(りろ),延喜式,本草和名,和名類聚抄,多識編,草花絵前集,大和本草,和漢三才図会,広益地錦抄

シュロソウ(3/3) 薬効 本草綱目・和漢三才図会・本草綱目啓蒙・原色日本薬用植物図鑑・薬草カラー図鑑

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