2013年5月28日火曜日

エゴノキ (4/5) 果実・ヤマガラ (本朝食監・大和本草・喚子鳥・和漢三才図会)・こやすのき・ちしゃの虫

Styrax japonica

花が終わると,エゴノキはイヌやブタ等の動物の乳房に似た実を多数ぶら下げる.この実は,未熟のうちは薄い皮に覆われ,それにはエゴノキサポニンと呼ばれる界面活性剤が含まれていて,動物や鳥類の食害から身を守っている.しかし,秋に熟すとこの果皮は縦に割れて1個の種子が露出する.堅い殻を割った中身はクルミに似た味で油脂に富む.

ヤマガラ 皇居東御苑 2010年 1月
この実はヤマガラの大好物で,果皮が樹上でむけるのも,種子散布者のヤマガラへのサービス.ナッツ類が大好きなヤマガラに,種子を露出させて誘っている訳.賢いヤマガラには他の鳥への派手な色などのサインは不要だし,むしろほかの鳥に目立たないほうが,好都合.ヤマガラはエゴノキの種子をくわえると,枝の上で足で押さえてつつき,殻を割って中身を食べたり,殻つきの実を運んでいって,別の場所で嘴を上手に使って殻をむくこともある.

また,ヤマガラは冬に備え,種子を木の割れ目や地面や石の間に一粒ずつていねいに埋めて貯蔵する習性があり,冬の間に大半は食べてしまうが,忘れられた種子が芽を出すことも多い.しかも,ヤマガラが種子を貯蔵するのは,エゴノキが育つのに適した開けた場所なので,エゴノキにとっては子孫繁栄のためには欠かせないパートナーとなっている.

ヤマガラはおみくじを引く芸をする鳥として有名で,50年程前に仙台で繁華街の街頭で何度も見たことがある.
頭がよく,人になれやすい飼鳥との評価はたかく,江戸時代に書かれた事典・本草書にも,

★人見必大『本朝食鑑 禽部之三』(1697),に,「山雀 也末加良と訓む。
〔集解〕 形状は頬白に似て、頭は黄白色に赤色を帯び、眼の前後と額とに黒い条がついている。背は灰赤色、嘴・胸・翅・尾はみな黒く、腹は赤色。性質は慧巧であり、能く囀る。久しく養ってすっかり馴れると、籠の中で非常にうまく飛び舞うようになる。それで、児女が紙でつくった細縄を環(まるい)輪の形に結んでいく重にも籠の中に懸けると、鳥はその隙を遶(めぐ)ったり、輪の中を通り抜けたり、反転したりする。常に胡桃を好んで食べるが、また荏(え)の子(み)も食う。」(島田勇雄訳注 平凡社-東洋文庫)とある.この荏の子は,エゴマは別に記述しているので,エゴノキの種子のことであろう.

喚子鳥 下巻 NDL
★貝原益軒『大和本草 第十五巻 小鳥』(1709) に「山カラ 性タクミニシテ慧ナリ 能サヘツル」とある.

★蘇生堂主人『喚子鳥 下巻』(1710)には「(前略)此鳥、羽づかひかろく、籠の内にて中帰りするかるき鳥を?。小がへりの内とまり木の上にいとをよこにはり、段々高くかゑるにしたがひ、其いとを上へ高くはりふさげ、のちには輪をかけ、五尺六尺のかごにてもよくかゑりわぬけするものなり。又芸あり。かごのそとへ出しやかごを仕出し、くるまきにつるべを仕かけ、一方に水を入れ、一方にくるみを入れ、常に水とゑをひかへするときは、かの水をくみあげ、又はくるみの方を引あげ、よきなぐきみなり。籠の内、上の方にひゃうたんにぜにほどのあなをあけつるべし。夜は其内にとまるなり。此鳥秋の末渡る。其内にてかろき鳥を見たて、げいを付くるなり」とあり,鳥類の飼育専門書として,ヤマガラの特性とそれを利用した”つるべ芸”について記述している.(読み下し,島田『本朝食鑑』ヤマガラの項の注)


★寺島良安『和漢三才図会 林禽類』(1713頃)には,「山雀(やまがら) 山陵鳥〔正字未詳〕〔俗に也末加良という〕
△思うに、山雀の状は画眉鳥(*メジロ)に似ていて、頭は黄白に赤色を帯びている。目、額の辺に黒条がある。背は灰赤色。嘴・胸・翅・尾はともに黒く,腹は淡赤である。本性、慧巧でよく囀る。いつも豆伊豆伊(ついつい)と鳴いているように聞こえる。好んで胡桃を食べ、食べ飽きると胡桃を覆(うつ)むけ、飢えるとこれをひっくり返して中の肉を啄む。紙撚(こより)輪を作って籠の中に置くと、よく飛んでその輪を潜る。別に宿処として小箱を籠の隅においてやると、夕暮れになると自らそこに入る。つねに物を攫むが、それは鷹や鳶の有様に似ている。その属の小雀、四十雀、日雀などはみな同様である。いずれもその肉味はよくない。それで人はあえて食べようとはしない。また薬用にもしない。ただ籠中で飼って児女の弄戯(もてあそび)とするだけである.」(現代語訳 島田・竹島・樋口,島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫)とし,また,『夫木和歌抄』巻二十七・光俊朝臣の歌「山雀の廻すくるみのとにかくに持ちあつかふは心なりけり」を引用している.
と,餌にナッツ類が好きなこと,頭がよくて遊び好きの性質を良く記述されている.

しかし,最近ではヤマバトが食餌にしたり,ヤマガラもまだ実が熟さないうちに中身を食べたりという行動が見られ(http://www.k4.dion.ne.jp/~horus/kajitu/egonoki.htm),エゴノキの戦略も多難のようだ.

この脂肪分やたんぱく質に富んだ種子は,人間にも利用され,三重県で果実を牛馬に食べさせると良く肥えるといい「肥やすの木」とよぶ(岡村はた他『図解植物観察事典』地人書館(S57年)).また,実をつきこねて灰と混ぜて水田の肥料とすることもあったので,これも別名「こやすのき*」の語源かと思われる.さらに,絞って得た油をエゴ油,ズサ油とよび,灯油として用いたという.

また,この実に産み付けられた卵から孵化したエゴヒゲナガゾウムシの成熟幼虫は「ちしゃの虫」と呼ばれウグイ,オイカワ,ヤマベやハヤなどの川釣りの釣り餌としてつかわれている.

*「こやすのき」の語源としては,伐っても直ぐに新しい幹が出てくるから「子安の木」との説もある.

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