2012年7月1日日曜日

シャクトリムシ 大和本草・和漢三才図会・本草綱目啓蒙



庭のフレンチマリーゴールドの茎に,体をいっぱい伸ばして着いていた.体色が,赤い茎とは大きく違うので,擬態にはならないのではと思ったが,色の感覚が人間と違う鳥類などの捕食者には見えにくいのかも知れない.

シャクガの類の幼虫.通常のイモムシは,胸部に3対の足を持ち,腹部に5対の疣足があるが,シャクトリムシでは腹部の疣足が後方の2対を残して退化している.そのため移動には、まず胸部の足を離し体を真っ直ぐに伸ばし,その足で物に掴まり、次に腹部後部の疣足を離し,体の後端部を胸部の足の位置まで引き付ける.この時に体は逆U字型になる.それから再び胸部の足を離し,ということを繰り返して移動する.この行動が,全身を使って長さを測っているように見えることから,「尺取り虫」と呼ばれる.英語名のloopers, spanworms, inchworms もこの行動に由来する.

この奇妙な行動は古くから人の目を引き,貝原益軒『大和本草』 (1709) 巻之14陸蟲シャクトリムシ には左図の様に記されている.

また,寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)(島田・竹島・樋口訳注,平凡社-東洋文庫)には

蠖(しゃくとりむし,チッポ)

 虫+就(しょくしゅく), 歩屈(ほくつ)
[和名は乎岐無之(おきむし).俗に尺取虫という〕
『本草綱目』(虫部、化生類、木宏虫〔集解〕)に、蚕に似ていて木の葉を食べ。(いもむし)よりも小さく、進むときは首尾を互いにくっつけ屈めてのち、伸ばす。老いると糸を吐き室を作り、化して蛾となる、とある。『羅山文集』(『詩集』巻第五十七、十二虫、尺取虫)に
化工到処入微塵 自然の化工は到る処、微塵にまで入る。
㊀眇形含気均 ㊀の眇形も気を含んで均(ひと)し。
一屈一伸知進退 一屈一伸して進退を知り
笑他直尺枉尋人 他の尺を直し、尋(尺も尋も長さの単位。一尋は八尺)を枉(ま)げる人を笑う
とある。(右図)
㊀=虫偏に就

•小野蘭山『重訂本草綱目啓蒙』(1803-1806)巻之三十五,虫之一 卵生類上
「ウイキヤウノムシ」の項の
〔集解〕に「尺蠖ハ、ヲキムシ シヤクトリムシ スソントリムシ タカハカリ」などの地方名をもち,また文献には「 屈伸虫 屈申虫 曲曲虫」などの名で記され,「此虫夏秋ノ候、草木上テ生ジテ葉ヲ食フ。形細長ク両頭ニ足アリ。腰ヲ屈シ首尾相就テ行。ソノ状人ノ両指ニテ寸尺ヲ度ルニ似クリ。故ニ、シヤクトリムシト名ク。易二尺㋥之屈、以求(レ)信也ト云、是ナリ。小ナル者ハ一寸ニ及バズ、大ナル者ハ二三寸二過。緑色ナルモノアリ、灰色ナル者アリ、褐色ナル者アリ。皆老スレバ羽化シテ蝶トナル。」とある. ㋥=虫偏に

英国で,シャクガの一種,オオシモフリエダシャク Biston betularia の白い体色を持つ種 f. typica の数が工業化に伴って減少し,黒い体色を持つ f. carbonaria が増えた現象を,大気汚染に伴う樹木の幹がススで暗くなり,目立つ白い体色を持つ種が捕食者により多く食べられたからだとする「工業暗化」の概念が提出され,進化論の中の「自然選択」を強調して説明する時に引用された.詳しくは Wikipedia の「工業暗化」の項.

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