2012年4月21日土曜日

クサノオウ(2/3) 薬効 アリ散布植物

Chelidonium majus

クサノオウの名前は,皮膚病の「くさ(湿疹)」を治す薬効があるために,「くさ(瘡)の王(おう)」と呼ばれるようになったという説があるように,民間では皮膚病の治療に用いられ,地方によってはタムシグサ,イボクサ,チドメグサ,ヒゼングサ(皮癬草)などと呼ばれる.一方本草では5~7月の開花時に地上部を刈り取り,通風のよい所で乾燥したものを白屈菜(はっくつさい,Chelidonii Herba)といい,鎮痛,鎮咳,利尿,解毒薬とし,胃の疼痛,胃潰瘍,肝臓病,黄疸,水腫,百日咳,気管支炎などに用いる(1日2-6g,煎用).また,新鮮葉の液汁を外用して,はれもの,いぼ,虫や蛇による咬傷などに用いる.

成分としてはケリドニン(右図),プロトピン,ケレリトリンなどのアルカロイドが数多く知られていて,薬理実験でケリドニンは各種平滑筋に弛緩作用と弱い血圧降下作用があり,中枢神経は抑制する.これらのアルカロイドにはいずれも毒性があり,多量に服用しすぎると昏睡を起こし,血管運動中枢が麻痺したり,強い腹痛を起こすので,民間での内服は絶対に避けるべきである. 上図右:長塩某製『礫川(小石川)官園薬草腊葉』(1813),上図左:泉本儀左衛門著『本草要正』(1862).

中国では,「白屈菜,雄黃草,觀音草」と呼ばれ,「用途: 全草和根均供藥用。根能破瘀止痛,主治勞傷瘀血、月經不調、痛經等症。帶根全草能消腫、止痛、解毒,主治蛇咬傷、瘡癤、疔毒,多用為鎮痛藥,治胃腸疼痛及潰瘍等症。也可制農藥,干品研粉撒布,可防治地蚤類害虫﹔將全草放入燒著的火堆中,可熏治果園中的無腳蜥蜴類害虫及菜園中蝶類害虫﹔鮮品加熱水浸汁噴洒,可防治蚜虫和甲虫。用,可作芳香劑。(人民網科技)」と鎮痛,止血,解毒,咬傷に用いるほか,日本と異なり,粉砕して,或いは燻蒸剤または液剤に加工して害虫を寄せ付けない農薬として使うところが興味深い. 

また,クサノオウの種は,スミレなどと同様にエライオソーム(カルンタラ,種阜(しゆふ),種枕(しゅちん),種冠(しゆかん)ともよばれ,珠柄・胎座などの一部が変化したものといわれる)と呼ばれるやわらかい多肉質の付属物をもち(左図),この付属物を好むアリを利用して種子を散布する.田中真一氏(1923,植物研究雑誌第 3 巻 1 号)はキケマン,クサノオウの 2 種子を新聞紙上に乾かしておいたところ,しばらくして無数のアリが集まってきて,各自 1 個ずつ種子をくわえ,四方八方に運んで行くのを見た.クサノオウの種子を運んだのはトビイロケアリ,キケマンの方はタロクマアリで,アリはこれらの種子をいちどは自分の巣の中に運びこむが,やがて種子だけを外に運びだした。つまりアリは巣の中で種冠だけを食い,あるいは貯えたのち,種子を廃物として外にすてるらしいのである。キケマン,クサノオウなどのいやなにおいはアリに好まれるらしいとも書いている。
クサノオウが岩塊の間や石垣の隙間によくはえるのは,種子がアリに運ばれたからであろう.こうした「アリ散布植物」は日本ではクサノオウ,スミレの他,カタクリ,エンレイソウ,カンアオイ,ホトケノザ,スズメノヤリ,ニリンソウ,フクジュソウ,エンゴサク,ムラサキケマン,ヤマブキソウ,イカリソウなど,さまざまな科にわたって 200 種以上が知られているそうだ.

ローマ時代のプレニウスや英国古本草書でのクサノオウの記載は,クサノオウ(3/3)

0 件のコメント: