2011年6月15日水曜日

タイトゴメ いつまで草 (2/2) 枕草子,花壇地錦抄,大和本草,和漢三才図会,本草綱目啓蒙

Sedum uniflorum subsp. oryzifolium = like a grain of rice
2001年6月 茨城県大洗町磯浜町
関東地方以西の本州・四国・九州・奄美大島,朝鮮半島に分布するマンネングサ属,マンネングサ亜族の特殊な海岸植物.時には波しぶきをあびる「良くまあこんなところに,」と思うような海岸の岩場に生育する.乾燥には抜群に強く,水なしでも数ヶ月は耐えられるという.葉は水をたっぷりと貯留する多肉質の円柱形で茎に密生して付く.通常は緑色だが,日当たりの良い場所や冬季には赤くなることがあり,和名はこの葉の形や赤い色が大唐米(南京米)に似ているからで,高知県柏島の方言との説がある.


さて,枕草子に出てきた「いつまで草」の正体だが,江戸時代の園芸書・百科事典で調べてみると

★伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』(1695)には「藤並桂(かづら)のるい 冬通木夏初
壁生草(いつまでくさ)通草 葉は紋所のつたのごとく木ニまといてのほる又よくかえに取付のほる物也秋紅葉する事朱ノ如」とされ,常緑のつる性の植物,キズタなら「いつまで草」の様に読めるが,これは紅葉はしないので,ツタを云っているのかもしれない.

★貝原益軒『大和本草』 (1709) には「仏甲草」(オノマンネングサ)と「仙人絛」(メノマンネングサ)の二種がマンネングサの類として記載され,「仙人絛」は「イツマデクサと云う」とされ(左図上, 中村学園)ている,更に『大和本草 諸品図(上)草類』には,「仏甲草」と「イツマデ草」が図示されている(右図, 中村学園).

★寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)には,「以知草(いちくさ)」と「壁生草(いつまでくさ)」の 2 種が記載され,後者の別名は「萬年草 マンネンソウ」であるとされている(下図).

以知草(いちぐさ)
正字未詳
[景天草(べんけいそう)の和名を以岐久佐(いきぐさ)という。これも景天の属である。それで誤って以知草というのであろうか〕
△思うに、以知草は景天草に似ているが極めて小さいものである。
また爪蓮華の苗にも似ている。高さ三、四寸。茎枝は弱くて蔓のようで繁茂する。五月に小さな黄花が開く。人家の庭園に栽えても繁茂しやすい。

壁生草(いつまでぐさ)万年草(まんねんそう)
[玉柏も万年草(ぐさ)という。ただし草の字を訓とでよみ分けている〕
△思うに、壁生草(べンケイソウ科)とは以知草の類で、葉は少し開いており、色も少し濃い。
水を好むがひどい湿気は悪む。極めて生え易い。たとえば細かく茎を切って地に挿すと、すぐ活(は)える。石壁の上でも、初めに湿り土をおき、これを栽えるとながらく枯れない。五月に五弁で尖った小さな黄花を開くが、以知草の花に似ている。
〔堀川百首(異伝歌)〕壁に生ふるいつまで草のいつまでかかれず間ふべき篠原のさと (公実)」

現代語訳 島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫 による

★小野蘭山『本草綱目啓蒙  巻之十六草部目録 草之九石草類一 十九種』(1803-1806)には

「仏甲草 総名マンネングサ ツルレンゲ イツマデグサ ステグサ イハマキ ノビキヤシ(雄大和本草) ネナシグサ(雌大和本草) ハマツツ イミリグサ 雄名イチゲサウ(大和本草) テンジンノステグサ ステグサ シテグサ ツミキリグサ チリチリ タカノツメ ホットケグサ ホトケグサ ネナシカヅラ コンゴウ ミヅクサ センネンサウ ヒガンサウ マムシグサ イハノボリ ナゲグサ マツガネ カラクサ 雌名イチクサ(三才図会) マンネソサウ(同上) コマノツメ イチリグサ フヱグサ コヾメグサ

路旁陰処林下水側ニ多ク生ズ。雄ナル者ハ苗高サ六七寸、叢生ス。葉細クシテ厚ク末尖リ、長サ八九分、黄緑色三葉ゴトニ相対ス。茎ヲ切捨テ枯ズ、自ラ根ヲ生ズ。四五月梢ニ花ヲ開ク。五弁黄色、大サ三分許、多ク枝二盈テ美ハシ。苗ハ冬ヲ経テ枯ズ。雌ナル者ハ苗高サ二三寸、葉雄ナル者ヨリ狭小、長サ三分許、厚クシテ尖ラズ、葉密ニ攅リ生ズ。冬ヲ経テ枯ズ。冬春二至リ葉紅紫色ニ染マリテ美ハシ。四五月花ヲ開ク。形色雄ナル者二同ジ。一種円葉ナル者アリ。葉大サ一二分、花ノ形色モ同ジ。幽谷石上ニ生ズ。一種万葉ナル者ハ、ミヅウルシト呼。一名ヤマヅタイ、イハガネサウ。葉大サ三四分、甚厚シ。夏花ヲ閲ク。形色全ツルレンゲニ同ジ紀州熊野山中ニアリ〔集解〕仏指甲、四物同名。一ハ景天、一ハ仏甲草、一ハ銀杏(イチョウ)、一ハ万氏家抄二出。」
と,あって,結局は,キズタかマンネングサの類なのか,よく分からなかった.ただ,『枕草子』の「草は」の項に出てくるので,清少納言の感覚から言うと,大きくなる「キズタ」ではなく,いかにも草らしい「マンネングサ」の仲間の可能性が高いと思われる.

清少納言『枕草子 第六七段』 「草は」

「(前略) あやふ草は岸の額に生ふらんも、實にたのもしげなくあはれなり。いつまで草は生ふる處いとはかなくあはれなり。岸の額よりもこれはくづれやすげなり。まことの石灰などには、えおひずやあらんと思ふぞわろき。 (後略)」

冬でも同じような草姿を保ち,抜いても枯れないので「いつまで草」,石垣や石積みなどの急斜面に生えることから「壁生草」と呼ばれたのであろう.

コモチマンネングサ いつまで草 (1/2)

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