2011年3月28日月曜日

ヒアシンス (2) コレット,ノアイユ伯夫人,根に含まれる粘液,薬用,香水

Hyacinthus orientalis, wild type? 終りにのぞんで、お許し得て、すはらしいコレットの一節を引用しよう。
「未経験と同じような、はにかみから来る大胆さを以って、ノアイユ伯夫人は花を描いた。
ある日、陶器のような青さの野性のヒヤシンスの壷を前にして、我慢できなくなった彼女は、口惜しまぎれに、パステルを投げつけた。
「ああ、このいやな、青いヒヤシンスが赤かったらうまく描けるのに」と溜息をついた。
- 赤くしたらいいでしょう、と私は言った。
彼女は私の方に、美しい切れ長の目を向け、頭を振って、蛇のように長い黒髪を揺った。「だめ、そんなこと出来ない。」
- なぜ?
- 私はそんな大家ではない……
- 大画家ではない?
- いいえ、大詩人ではない、とつつましく言った。」
   「花の歴史」リュシアン・ギヨー,ピエール・ジバシエ著, 串田孫一訳 ≪文庫クセジュ≫ 1965

ノアイユ伯夫人(Anne Claude Louise d'Arpajon, Comtesse de Noailles 1729 - 1794) はマリー・アントワネットから"Madame Etiquette" と呼ばれるほど,宮廷の礼儀作法にうるさい指導者.池田理代子作「ベルサイユのばら」に描かれて,ソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」ではジュディ・デイヴィスが演じている.

この花の魅力は,花弁の中央の紫の線が集まる花芯へのデルフトブルーのグラデーションの花色,そして一茎の花で部屋を満たすさわやかながら甘い香り.そしてくるりとカールした花弁の形.園芸種の,花がびっしりとついた華麗さはないものの,気品ある清楚さ.黄色いラッパスイセンと互いに引き立てあう.

イギリスでは,19世紀の中ごろまで,年々オランダから大量に輸入していた。根に含まれる粘液はでん粉に代用され,固いひだえりの流行した16世紀にはこれをのりに用いていた。こののりは,矢に羽を塗りつけたり,書物の装丁にも利用した。取り立てていうほどの薬効はないが,それでもこしけの妙薬とされていたし,大陸では香水の材料のひとつとされている。イギリスでは,古くはその根をつぶして白ブドウ酒に混ぜ,それを髪に塗って伸びるのを防いだ。これとは逆に,Dioscoridesによれば,この根ははげに発毛の効があるという。
   「英米文学植物民俗誌」加藤憲市著 冨山房 1976

その香りはすっきりとしつつも甘さを持った素敵なグリーンフローラルで、Palazzo Vecchio の Giacinto Selvatico(左図),Penhaligons の Bluebell,Chanel の Cristalle,Gucci の Envy等の主精油として使われている.

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