2011年2月28日月曜日

イチゲサクラソウ ケンブリッジ大バックス,シェクスピア,ディズレーリとヴィクトリア女王 ,サクラソウの酒,薬効

Primula vulgarisまだ風の冷たいカレジの庭.枯れた芝生の中にぽっかりと咲いたイチゲサクラソウ(撮影 1978 年 3 月,英国ケンブリッジ).英国に,春の訪れを告げる自生の花として Common primrose の名で古くから親しまれている.生活の中に取り入れられ,文学作品にも多く現れている.

詩人はこの花を‘yellow’ ,’green’,‘white’ 近代では‘golden’ などの形容詞で修飾するが,シェークスピヤが The Winter’s Tale(IV,iv,122)において,若くして亡くなる乙女の描写に‘pale(淡い色の)’を冠して以来,この形容詞で修飾するのが文学的伝統となった.

--- Pale primrose,
That die unmarried, ere they can be hold
Bright Phoebus in his strength-a malady
Most incident to maids.
-Shakespeare:The Winter’s Tale,IV,iv,122-5.
処女のまま、日の神フィーバスの
燦然と輝くお姿も拝さずに死んでいく ― 娘たちには
よくありがちな病気ね、これは - そのかわいそうな
顔色の悪い桜草。(小田島雄志訳)

若さ(youth)を象徴するこの花は,そのまま,童心や郷愁と重なり合い,デージーと共に,国を遠く離れた異境のイギリス人に,周りのどんな美しい花も忘れさせ,望郷の思いをかきたてる.

一方,サクラソウの咲く道 ‘the primrose path’ は,比喩(ゆ)的に「享楽の生活,道楽」をいい, Shakespeare の Hamlet,Ⅰ,iii,50 ではオフェーリアが,ハムレットとの交際について兄レヤーチーズがした説教に対して
"Do not, as some ungracious pastors do,
Show me the steep and thorny way to heaven,
Whiles, like a puff'd and reckless libertine,
Himself the primrose path of dalliance treads
And recks not his own rede. "
「ご自分はどうなの?」と反論している.
この the primrose path を坪内逍遙は「あだ美しい花の咲く(自墮落な)道」,野島秀勝は「(歓楽の)花咲く道」,福田恆存は「(あちこちと)花咲く小道」と訳している.

また,ヴィクトリア時代に活躍した英国史上ただ一人のユダヤ系の首相,ベンジャミン・ディズレーリ (Benjamin Disraeli, 1804 - 1881) はことのほかこの花を好み,ヴィクトリア女王はことあるごとに、自ら庭先で摘み取った Primrose をディズレーリに贈った.首相は「他の何よりも勝る贈り物」として喜々と受け取るという次第で,二人の仲は恋仲と誤解されんばかりであったという.ディズレーリの葬儀にヴィクトリア女王は Primrose の花輪を,自筆の "His favourite flowers: from Osborne: a tribute of affectionate regard from Queen Victoria." というメッセージと共に贈った.このサクラソウのエピソードから、ディズレーリの命日は “Primrose Day” と呼ばれ,また、ディズレーリの死後に結成された保守党の党員団体は “Primrose League” と称し,花をかたどったバッジをつけた.

花も葉も食べられ,サラダにするとやや苦味があるそうだ.花弁を用いて造った “primrose wine” というお酒も良く知られている.しかし乱獲がたたってか,野生の個体数は少なくなり,英国では現在は保護植物に指定されているので,ワインを造るには大量に庭で育てなければならない.

この草は民間療法にも利用され,中風・麻痺(ひ)・筋肉リュウマチのほかに,その花の薬湯をヒステリー・精神病・不眠症の薬ともした.ハムプシャーでは,この花を豚脂に混ぜて黄色に煮詰めたものを霜焼けの薬とし,リンカーンシャーではこの葉の煎じ汁を早老の人に飲ませた.

2011年2月22日火曜日

ゲンチアナ・アカウリス (チャボリンドウ)

Gentiana acaulis
ヨーロッパアルプスを象徴する花というとエーデルワイスの名が挙がるが,この Gentiana acaulis (チャボリンドウ)もその一つ.英名 Stemless gentian や学名のとおり,茎がほとんど見えずに咲くので,緑のアルプの中にアルプスの青空を写したような鮮やかな碧い花が目立つ.一時は薬草として乱獲されたらしく,スイスでは “Protected plants of Switzerland“ の一つになっているが,ベルナーオーバーラントの草地ではよく見られた.写真はラウターブルンネンの谷を挟んでユンクフラウに向かい合うミュ-レンの草原に咲いていた花.向こうに見えるのはアイガー・メンヒ・ ユンクフラウ(撮影 1978年 7月).

ヨーロッパアルプスからピレネー山脈に分布.標高1200~3000メートルの草地に生え,高さは5~10センチ.5月から7月ごろに濃い青色の花を咲かせ,花冠の内側には緑色の斑点がある.日本でも「ちゃぼりんどう」の名で山草として栽培されている. E. Step による多色石版の図譜 (1896-7) は,もうひとつのブログに掲げた.図版はこちらで見られる.

生育地では非常に親しまれていて,切手(ルーマニア)や,コイン(オーストリア,1ユーロセント)の図柄に採用されている(左).
また,ドイツやオーストリアの町で目にする “Nasenschild(鼻看板?)” と呼ばれる鉄製の「飾り吊り看板」のモチーフにもなっていた(右下).

おまけはこの Nasenschild のスライドショー.英国のパブの木製の "pub sign" もキッチュで面白いが,この Nasenschild の方が洗練されている.3枚目のザルツブルグの目抜き通りゲトライデガッセは両側から多くの Nasenschild が突き出しているが,見通しが利くので狭い通りでも圧迫感がない.店主と製作者のセンスが光る.

video

2011年2月17日木曜日

クロッカス・アルビフロルス

Crocus albiflorusWikiの英語版によれば, 1982 年に Brian Mathew が,クロッカスを A, B の 2 つの Section に,それぞれを更に 7 及び 9 の Series に分け,全部で 152 の種・変種に分類した.それに従えば,ここに示したクロッカスは白は A-1-6 ,紫は A-1-7. となる.

A. Section Crocus : species with a basal prophyll
  1 Series Verni: corms with reticulated fibers, spring-flowering (apart from Crocus longiflorus), flowers for the most part without conspicuous outer striping, bracts absent
    6 Crocus vernus subsp. albiflorus (Kit. ex Schult.) Asch. & Graebn.
    7 Crocus vernus subsp. vernus

1978年7月のベルナーオーバーラント.ユンクフラウ・ヨッホへの登山鉄道の上り口 (Kleine Scheidegg) から,滞在していたウェンゲン(Wengen)に降りる道は雪渓が残るアルプの中を通っていく.途中には夏の放牧のための小屋がいくつもあり,大きなカウベルが軒先に魔よけの様に懸かっていた(左).

融けていく雪渓を追いかけていくように咲いていたのが白と紫のクロッカス.大多数が白い Crocus albiflorus で,濃い紫の Crocus vernus がアクセントとなっていた.咲いている期間は短く,なかなか出会うのが難しい花とのこと.これほど多くの野生のクロッカスを見たのは初めてだったので感激した.


スイス観光局のOfficial site (日本語版)では青空をバックにしたもっと絵画的な美しい風景が見られる. (http://www.myswiss.jp/jp.cfm/nature/flower/crocus/)

2011年2月14日月曜日

クロッカス セントバレンタインデイ,ケンブリッジ大バックス

Crocus vernus cv.
Along these blushing borders bright with dew,
And in yon mingled wilderness of flowers,
Fair-handed Spring unbosoms every grace-
Throws out the snow-drop and the crocus fist.
J. Thomson (1700-1748):The Seasons, ‘Spring' 527-30.
2 月 14 日は St. Valentine’s day.一般的には「ローマ時代,ローマ帝国皇帝クラウディウス2世は兵士は家庭を持つと戦意が損なわれると結婚を禁止した.しかし司祭バレンタインはその令にそむいて兵士達をひそかに結婚させていたが発覚し,2 月 14 日に殉教したので,この日がSt. Valentine’s dayとなり,愛の日となった」といわれている.しかし,これはあくまでも伝説で,このような事を行ったバレンタイン神父の存在は確認できず,この日はカトリックの正式の記念日ではない.

実際は,キリスト教が,それ以前の宗教の春の到来を祝う祝日(神の女王であり、家庭と結婚の神でもあるユノの祝日)を,祝う日は変えずに聖者の記念日に変えたと考えられている.キリスト教は布教の際,民衆に定着していたイメージや祝日を,巧みにキリスト教のそれに改変し,スムーズな改宗の手助けとしたことも多いとか(ダン・ブラウン「ダビンチ・コード」).

引用した詩にあるように,英国ではクロッカスはスノードロップと並んで,待ち望んでいた春の到来を告げる花. この二つの花を並べて描いたソーントンの「花の神殿」の図譜も有名.
英国ケンブリッジでもこれが咲くと本格的な花の季節.Winter aconite の終わった後の芝生を埋め尽くす(冒頭の画像 1978年3月).
左は先日UPしたWinter aconite の画像とほぼ同じアングルで撮影した画像(1979年3月).クリックして拡大すると Winter aconite の残り花と共に,黄色や紫色のクロッカスが確認できる.

2011年2月11日金曜日

クロッカス・トマシニアヌス ケンブリッジ大バックス

Crocus tommasinianus2 月 14 日の St. Valentine’s day にちなんで,クロッカス( Crocus )の花を.英国では ‘The dainty crocus blows before the shrine at vernal dawn of St. Valentine,’ といい,クロッカスを聖バレンタインの花としている.

クロッカス・トマシニアヌス Crocus tommasinianus (別名 Woodland crocus, Tomasini's crocus) はしばしば 'Tommies' とも呼ばれるが,種小名はトリエステの市長で有名な植物学者 Muzio G. Spirito de Tommasini (1794-1879) にちなんでいる.early or snow crocus と呼ばれる早咲きのクロッカスの中でも最も早く咲く.ブルガリア,ハンガリーや旧ユーゴスラビアの原産であるが,欧州で広く栽培され,野生化している.園芸種に比べると,花はやや小さいが,その割に背が高く,葉がよく見えないに咲くのが特徴.花は銀色を帯びた薄紫色が基本だが,白色が勝っているもの,ラベンダー色のもある.

英国ケンブリッジでは Winter aconite の次にカレジの裏庭に春の到来を告げる.葉が目立たないうえ,白っぽい花が密に群生しているので,花が開いていない曇天下では,きのこのヒトヨダケのような印象を受けた(写真は上下とも 1978年3月 撮影).
日本ではあまり見かけないが,球根は販売されている.

2011年2月9日水曜日

雪の中のラッパスイセン,アーリー・センセーション

Narcissus pseudonarcissus cv. “Rijnveld’s Early Sensation” - (1 Y-Y)


早朝にはほとんど積もっていなかった雪が,8時半に再度降り出し10時にはボタン雪が 3-5cm 積もっていた.
そのお陰で,早咲きのラッパスイセン,アーリー・センセーションが雪の中に咲いている光景が数年ぶりに見られた.今年の寒さのせいか,昨年に比べると草丈は低く感じられる.

春の陽光を浴びての満開の花々(http://hanamoriyashiki.blogspot.com/2010/03/blog-post_02.html)もいいが,雪の中の花も風情がある.と思っていたが,11時には日が差して雪は融けてしまった.短時間の風景.

2011年2月6日日曜日

キバナセツブンソウ ケンブリッジ大学バックス

Eranthis hyemalis
一寸遅くなったが,節分にちなんで,キバナセツブンソウ(セイヨウセツブンソウ). 撮影1978年 2月.Cambridge, England

欧州に見られるキンポウゲ科の植物.背は低いが黄色い杯状の大きな花を開く.Winter Aconite や Wolf's Bane(狼毒)とも呼ばれる.根茎から育ち,全ての部分は人が食すると有毒.森林地帯に自生するが,グランドカバーとして庭に植えられ,早春の鮮緑色の葉と,鮮黄色の花が高く評価される.Eranthisという名前は、「春の花」という意味のギリシア語に由来.英国自生とも,フランスからブルガリアの地中海沿岸に分布してヨーロッパ中部・西部に帰化したとの説もある.緑の小総苞が襟飾りのように花を囲んでいるのが特徴.花は日光が照っている間だけ開き,暗くなると閉じる.

英国ケンブリッジのカレジの裏庭を,黄金の絨毯のように彩り,春の到来をつげていた.後ろに見える建物は Kings Collage のChapel.撮影1978年 2月.
これが枯れるとクロッカスが咲き出し,遅い春の盛りとなる.
日本のセツブンソウの近縁とされることもあるが,花弁(花被)の繊細さに欠ける.低温に強く,育てやすいそうだ.

2011年2月4日金曜日

ロゼット葉(2)

Rossette (2)
2月に入って気温も上がり,地植えのフクジュソウが咲き出した.ホトケノザ・オオイヌノフグリも.キク科以外の植物のロゼット様の冬越し葉もそれなりに造形的には美しい.
パンジーViola tricolor), オオイヌノフグリVeronica persica
ハマナデシコDianthus japonicus cv. “Summer lavender”), セイヨウノコギリソウAchillea millefolium

冬の光合成は結構高能率だそうだ.他の条件が揃えば気温が高い方が光合成速度は速いので,植物の収入は気温の低い冬よりも夏の方が多い.しかし,支出である呼吸も温度が高いと激しく,特に熱帯夜などのように夜も気温が下がらない時期には,せっかく昼間に光合成で得られた収入を夜間の呼吸で消費してしまうことになる.
一方,気温の低い冬季には光合成は盛んではないものの,呼吸は非常に低いレベルに押さえられるので,結構純利益はたくさんある.冬の日だまりに生えている植物は小さな葉しか付けていないが,結構高能率の光合成を行っていると考えられる.
また,冬に働く酵素と夏の酵素(至適な温度やpHの差のある酵素)がそれぞれの季節で活発に活動している可能性も高いとのこと.また低温に会うと(特に幼体の)葉の色が赤味を帯びることが観察されるが,これは低温に対しての抵抗性を高めるためかもしれない.

(参考:岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科 植物生態研究室(波田研)ホームページ http://had0.big.ous.ac.jp/ecologicaldic/r/rozetto/rosette.htm)

2011年2月2日水曜日

キク科のロゼット葉

Rosette (1)
異常に寒かった今年の冬.ようやくスイセンのアーリー・センセーションが咲き出したが,まだ春は遠い.そこで庭に咲くキク科のロゼット葉を.
ヒレアザミ(Carduus crispus), チチコグサ(Gnaphalium japonicum
ハハコグサGnaphalium affine), ヒメムカシヨモギ(Erigeron canadensis

成長すると困りものの雑草類もそれぞれに特徴ある美しい形態をとる.とくに霜の付いたヒレアザミのロゼッタはまるで繊細な手工芸品のよう(写真はなし).

「ロゼット葉」は出来るだけ重なりが少なくなるように,葉がバラの花の形で地面に広がって立ち上がっていない状態をいう.地表面に張り付いているタイプのものだけではなく,やや立ち上がっているものも,ロゼット葉に含める.越年草や地上部が枯れる多年草が,冬の間だけロゼット葉ですごし,春先に,放射状の中心から直立した茎をのばすのも多い.風や雪で倒れる茎は冬の間はないほうが良いし,支持器官を作るためのエネルギー投資が不要.その分,低コストに葉を拡げられる.さらに,日光が当たると冬のさなかでも昼間は地温があがる.極寒の季節でも,直射日光が当たると結構葉温は上昇し,光合成ができるまでに簡単にあがるらしい.

他の植物に成長を妨げられず,暖かくなればいち早く茎を伸ばすためにとった植物の戦略.たしかに効果はあるようだ.雑草と呼ばれる招かれざる,生命力に満ちた植物に多い.