2010年10月14日木曜日

コスモス "イエローキャンパス"

Cosmos bipinnatus cv. ‘Yellow Campus'
心中をせんとて泣ける雨の日の白きこすもす紅きこすもす  与謝野晶子

コスモス(オオハルシャギク)はメキシコを中心とした中南米及び北米南部原産.図譜(銅版手彩色)を左下に示した Curtis “Botanical Magazine 1813” によれば,欧州では 1789年の10-11月にマドリッドの王立植物園で開花,1791年に A.J.Cavanilles によって記載された.また1812年にメキシコから英国にもたらされた種子からボイトンで咲いた花を元にこの絵が描かれた.
日本では,文久二年(1862)12月遣欧使節が持ち帰った250種に及ぶ種子類の1つにあった.

コスモスの花色といえば,栽培が開始されてから約150年間は,野生原種の花色である桃色,白色に加えて深紅色,およびそれらの組み合わせ模様からなる発色に限られてきた.ところが一人の日本人の遺伝・育種学者による変異体の発見,および根気強い育種学的研究と農学教育の継続が,世界で初めての黄色コスモスをわが国において誕生させることになった.その人が佐俣淑彦(よしひこ)博士(1919-1984)である.

1957年,当時研究に使用していた東京大学田無農場において,紅色の八重咲きではあるが花弁の一部が黄色である1株の変異体を発見し,この黄色を,一重咲きコスモスへと取り込む実験に着手した.佐俣博士は1984年6月に逝去したものの,その遺志は教授を勤めていた玉川学園の研究者に受け継がれ,30年後(春と秋の選抜で,約60世代後)にあたる1987年に,世界初の黄色コスモスが「イエローガーデン」の品種名で登録された.しかし,次第に形質の退化が見られるようになり改良した結果,1998年にはさらにはっきりとした黄色の品種として「イエローキャンパス」が作られた.他にも玉川大学では,オレンジがかった「オレンジキャンパス」,クリムゾンと黄色の色素が重なった「イエロークリムゾンキャンパス」,濃い赤色の「ディープレッドキャンパス」が開発されている.

なお,黄橙色,鮮黄色,濃赤色等の花を咲かせるキバナコスモス(Cosmos sulphureus )は葉の形が異なる別種で,Cosmos bipinnatus との間では種を作らない.最近はチョコレートコスモス (Cosmos atrosanguineus) や,属が異なるウィンターコスモス(Bidens laevis センダングサ属)も園芸店で入手できるが,これらには秋桜の別名が似合う Cosmos bipinnatus の優雅さがない.

昭和記念公園などの花畑がまだ有名でない10年ほど前に一度,サカタから購入した種から育てて,道行く人に珍しがられた.画像の花は,昨秋近くの花壇の種をいただいて今春播いて育てた.猛暑で水切れのせいかあまり勢いはよくないが,花の色はきれい.

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