2010年4月28日水曜日

タマシダ

Nephrolepis auriculata
 本州南部に自生するシダだが,裏の通路に長年生えている.南国生まれだけあって,夏には大いに繁る.葉は羽片の基が耳状に飛び出して,葉の軸を覆う.貯水組織とも,これから芽が出てくるとも言われる白い球が根についているのが名の由来(右).なお,この白い球がどういう働きをしているのかは未だに不明のようだ.

 盛口満『シダの扉 -めくるめく葉めくりの世界』八坂書房 (2012) によると「沖縄の一地方ではこのタマシダの玉を,子どもたちはネコノキンタマと呼んでビー玉代わりにして遊び,また別の地方ではおじいさんの皐丸(タンメークーガー)と呼び,少し甘味があるこの玉をおやつとして食べたという.」とある.

 欧州では,古くは羊歯は花も種子もない,不思議で不気味な植物とされ,俗にMidsummer Eveに青い小さな花を開いてすぐしぼみ,たちまち種子を結んでその夜の正12時に落ちるとか,種子は魔術でなければ発見できないとか,悪魔が管理するその種子はMidsummer Eveでなければ得られず,得られた種子には霊験があって,それを身につけていれば姿をかき消すことが出来るとか,山で黄金を掘り当てることが出来るなどといわれていた(「英米文学植物民俗誌」加藤憲一 1976 冨山房).

 19世紀の半ばには富裕階級の温室で,熱帯の雰囲気を出すための小道具として競って世界中の珍しいシダ類が栽培されたようだ.また葉の精密な対称性や規則正しい並び方などに美を見出したらしく,多くの羊歯が植物図譜に取り上げられ(例えば Anne Pratt;The Flowering Plants, Grasses, Sedges and Ferns of Great Britain ),羊歯に特化した植物雑誌もあり( E. J. Lowe;Ferns: British and Exotic ),中には実物を銅版に転写して印刷した図を用いた図譜( Thomas Moore;Nature Printed British Ferns )もあった.



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